2024年5月15日(水)

食の安全 常識・非常識

2021年12月10日

 しかし、うま味調味料は調理時にごくわずか、通常は1㌘も使いません。うま味調味料1㌘に含まれるナトリウム量はおよそ0.14㌘です。うま味が減塩に効果があるというエビデンスも積み上がってきたのに、わずかなナトリウムによる赤マークで、大きなベネフィットを失いかねません。

 13年からブラジル味の素社にいた西井社長は対応に苦慮しましたが、さまざまな説明を経てなんとか、注意喚起表示の対象から外してもらうことに成功しました。

ヨーロッパ型教条主義から、日本型の協調路線へ

 ヨーロッパの教条主義に飲み込まれて従うのではなく、エビデンスを提示しルールメーキングを働きかけてゆく日本へ。西井社長は、日本は産官学、市民団体なども加えた協調型の栄養改善をアジアへ広げてゆくべきだ、と主張します。実際に、ほかの食品企業とも連携を協議中。国立健康・栄養研究所を核とし、日本栄養士会なども協力した研究調査や消費者などへの普及活動が、動き出す見込みです。製品単体への表示など単純明快な方策から、メニューや食生活全体への貢献と消費者理解、教育を促す取り組みへ。複雑さが増し困難を伴うのは明らかですが、チャレンジが続きます。

 「日本は戦後、栄養改善に励み、世界一の長寿国になりました。栄養士を核とした学校給食制度も、世界に誇るべきものです。今、世界で医療費が増大していますが、新興国は高価な医薬品を買ってヘルスチェックできるわけではない。日常の食を通じて健康になるシステムづくりには、大きなベネフィットがあります。日本は、諸外国に対して貢献をできるはず。日本の取り組みをシェアしてゆきたい」と言う西井社長。ほかの食品企業も、東京栄養サミットの公式サイドイベントなどで、自社の強みや工夫を語り、社会の栄養改善への貢献を強めてゆく姿勢を見せています。

 まだ、日本では栄養に対する一般消費者の関心が薄いのはたしか。しかし、世界は大きく動いています。日本の産官学が、日本の栄養をどう変え消費者を揺り動かし、世界に貢献して行くのか。今後に要注目です。

(本記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

<参考文献>
東京栄養サミット公式ホームページ
外務省・東京栄養サミット2021スピーカーズリスト
味の素株式会社 栄養・健康
Wallace TC et al. Current Sodium Intakes in the United States and the Modelling of Glutamate's Incorporation into Select Savory Products. Nutrients. 2019 Nov 7;11(11):2691.
Tanaka S et al. Modelling Salt Intake Reduction with Umami Substance’s Incorporation Into Japanese Foods: A Cross-Sectional Study. BMC Public Health. 2021(プレプリント中)
Nomura S et al. Umami: An Alternative Japanese Approach to Reducing Sodium While Enhancing Taste Desirability. Health. 2021 June 13(6)
Baker P et al. Ultra-processed foods and the nutrition transition: Global, regional and national trends, food systems transformations and political economy drivers. Obes Rev. 2020 Dec;21(12)
味の素パーク
Koiwai K et al. Consumption of ultra-processed foods decreases the quality of the overall diet of middle-aged Japanese adults. Public Health Nutr. 2019 Nov;22(16):2999.

   
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