2024年5月16日(木)

食の安全 常識・非常識

2021年12月10日

 西井社長は「我が社の研究開発(R&D)費用は毎年、260億円前後。全売上高の2%強に相当します。うま味調味料を構成するグルタミン酸からスタートしたアミノ酸科学研究が、電子材料事業や核酸系医薬品開発へもつながり、企業価値の上昇へと結びついている」と胸を張ります。研究費を投入し科学的根拠、つまりエビデンスを出し続けた結果、栄養貢献において「うま味によるおいしい減塩」という独自の特徴をつかみアピールできるようになり、それがESG (環境、社会、企業統治)投資家に大きく評価され、なおかつ、他事業の成長も促している、というわけです。

欧米型評価に、あえて苦言

 それに加え、野菜・果物、多様なたんぱく質摂取につながる製品提供を進めるため、同社独自で栄養プロファイリングシステム(ANSP)を導入し、2020年から運用し製品改善を進めています。さらに日本の学校給食や栄養士制度をアジア各国に紹介し、実際にベトナムでは栄養士制度が発足しました。そのほか、世界中の工場・事業所で、社員・従業員の栄養改善、栄養リテラシーの向上に取り組んでいます。

 これらが評価され、第2回で紹介した企業の栄養への貢献を示す評価指標ATNIのランキングは18年版、21年版ともに14位でした。

 そして、この10月に日本向けに開かれたATNIローンチイベント。自社の実績を誇るのか、と思いきや、西井社長はあえて、ATNIの評価法の改善を求めました。

 欧米とアジアの食生活は異なり、加工食品への依存度がまったく異なります。加工度が非常に高い「超加工食品」の一人当たり販売重量は、日本を含むアジアの人々においては、北米の3分の1にも満たないのです。つまり、日本を含むアジアでは、米や肉、野菜などを買ってきて調理して食べています。

一人当たりの超加工食品(ultra-processed food)の売り上げ重量は、欧米がアジアの3倍以上に上る (出所)ATNIローンチイベント味の素資料。文献(Baker P et al. Obes Rev. 2020 Dec;21(12))のグラフを基に作図 写真を拡大

 日本人の食生活における超加工食品の割合は、別の研究でも詳しく調べられています。全エネルギー摂取における超加工食品の割合は、4割を下回っています。だからこそ第1回で述べたように、欧米では販売されている加工食品への表示や成分改善が、栄養面で非常に効果的であり、他方、日本をはじめとするアジアではそれほどの効果を持ち得ないのです。

(出所)Koiwai et al. Public Health Nutr. 2019 Nov;22(16):2999. 写真を拡大

アジアのローカルな視点の重要性

 西井社長は「我が社のシーズニングビジネスは売上の3割弱あり、間接的に栄養改善に寄与しているのに、評価につながらない」とも訴えました。

 今、日本では調味ソースビジネスが隆盛です。スーパーマーケットの店頭には、「肉や野菜を切って鍋に入れ、このソースで調理すれば、あっという間にレストランの味に」という各社の製品がずらりと並んでいます。これらは単体では高塩分で野菜や肉はほとんど入っておらず、製品評価としては低くなります。しかし、家庭での調理の負担を減らし、結果的に生鮮野菜や肉、魚などの摂取が増えるのなら、栄養改善を促す立派な製品、です。

 結局、製品単体の評価では、食生活・栄養改善の効果は測定できないのです。


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