アジアには、すでに、中国という地域覇権国家の候補がある。米国が、アフガンやイラクから引き揚げて、アジアに軸足を移しているのは、まさにそのためである。
世界の安全を維持し、自由な経済活動を支持する政策は、米国にとって60年間有益だった。この姿勢は、「われわれの知っている悪魔」であり、引き揚げ後の世界は、「われわれの知らない悪魔」である。自由を信奉する指導国の関与の無い世界というのは大きな実験であり、その結果は破滅的でもあり得る、と論じています。
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これは、米国の対外関与引き揚げ論に対する反論ですが、三人連名の論文ということもあってか、特に一貫した理論があるというよりも、個々の論点を取り上げて反論しているだけという感があります。
全体として言わんとしているところは、米国のこれまでの世界の覇権国としての振る舞いは、総合的に見れば成功だったので、これを突然止めることは危険である、ということに尽きます。現状に種々問題や欠陥があることは認めつつ、現状を変えることは、予測も出来ない危険を伴う、と言っているわけです。それが現実主義というものでしょう。そして、この結論には賛成できます。
一つ、この論文で目を引くのは、強制削減(sequestration)以前の、ゲーツ、パネッタの軍事予算削減でも、2017年には、米軍事費はGDPの3%以下になるということです。それは、大いに懸念すべきことです。
米国の国防費は、冷戦終結後、冷戦中のGDPの6%から毎年減って、クリントン政権の後半(1997-99年)には3%にまで落ち込みました。当時は、装備の維持もままならず、故障した場合、新たな部品が調達できないので、他の装備から部品を取り出して来るなど、「共食い」のようなことをして全体の戦闘力が落ち、人件費や手当も削減されて軍の士気も極端に落ちました。そして、このままでは、軍の士気が維持できないということで、2000年の選挙でブッシュ政権が出来てからは、2001年の9.11を待たず、国防費増額の方針が決定されたという経緯があります。それでもGDP比3%でしたが、この論文によれば、それ以上に落ちるということであり、それに加えて、部分的にでも強制削減が適用されれば、もっと酷いことになります。
国防費のGDP比は、3.5%から4%ぐらいが、覇権国として責任を負うには適度ではないかと思われます。イラク戦争の最中に軍事費の増大が憂慮された時、かつて『帝国の衰亡』を書いたポール・ケネディが、GDP4%で帝国が維持できるのなら安い、と言っています。それが、3%以下になるとなれば、われわれ同盟国の方が心配にならざるを得ません。
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