プリンストン大教授のアイケンベリー(Ikenberry)、ダートマス大准教授のブルックス(Brooks)とウォルフォース(Wohlforth)の3人が、フォーリンアフェアーズ1-2月号掲載の論文で、過去60年間、米国は世界の安全を守り、自由な経済交流を援けるために世界に積極的に関与し、成功して来た。もし今、米国がこの役割を放棄すれば、世界に破局をもたらすことになりかねない、と論じています。
すなわち、米国の歴代大統領は、政策も戦略も異なったが、世界に深く関与するという基本的姿勢は変わらなかった。現在、中国の興隆が米国の優位を脅かし、財政危機が国防予算を制限し、国民は二つの長い戦争に疲れている。そのために、米国の海外からの引き揚げ、少なくとも同盟国のただ乗りをやめさせるべきだという主張が生まれている。しかし、引き揚げ論は、既存の戦略のコストを過大評価し、その利益を過小評価している。
米国の介入が地域諸国を刺激して反米的な連合を作らせているという一部の批判は当たらない。米国は、地域諸国の潜在的対立関係を和らげ、協力を促進している。
引き揚げ論が、単純に海外駐留米軍の引き揚げを主張しているとすれば、駐留のコストの大部分は駐留国が負担しているのだから、それは、ほとんどコストの削減にならない。国防費が高すぎるという批判はあるが、2012年秋の計画では、国防省は今後5年間で約5000億ドル削減し、現在4.5%のGDP比を2017年には3%以下にする予定である。防衛費による帝国の衰亡論を言う人はあるが、経済学的には、国防費と帝国の盛衰との間にははっきりした関係があるわけではない。また、日本は、国防費を節約して興隆したという説もあるが、日本経済は一人当たりのGDPが米国に追いつく頃から停滞するという経済学的に当然の現象を示している。
また同盟は、米国を戦争に捲きこむというが、ヴィクター・チャ(Victor Cha)によれば、同盟は、より大きい戦争に米国が巻き込まれることを抑えている。ブッシュ政権の政策は、中国の台湾攻撃を抑止するだけでなく、台湾が独立を宣言して、中国を挑発することも抑えていた。
対外関与政策によって負担を米国独りが抱え込むことになるという批判もあるが、それは、イラクだけが例外であって、ボスニア、コソボ、アフガニスタン、リビアでは同盟国も負担した。
また、同盟は核拡散を防ぐ効果もある。冷戦時代、韓国、台湾は核武装を希望したが、米国はそれを抑えた。
米国は地域の競争関係を緩和させている。それは、同盟国の軍事費が減っていることで明らかである。
また、同盟は経済関係の強化に資する。ドイツ、韓国の例では、同盟を維持強化するために米国との経済関係強化に応じた。日本の例では、野田総理がTPPを支持したのは、経済的利益よりも、むしろ米国との関係強化を欲したからである。