2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年1月14日

 米AEIのマッケンジー・イーグレン(Mackenzie Eaglen)研究員とPardee RAND大学院博士課程学生のジュリア・ポラック(Julia Pollak)が、11月にAEIから長文の論文を発表して、米国財政緊縮下、軍事予算が悪者扱いであり、就中研究開発予算は単独費目として目立つから、大ナタを振るいやすいが、既に歴史的低位にある軍需研究開発予算をこれ以上削ると、2023年には中国に抜かれるので、削ってはならないと、米連邦議会に向け、具体例や証拠を盛り込みつつ訴えています。

 すなわち、軍需開発予算はいま、1980年代半ばに比べ、GDPに占める比率にして半分に低落した。振り向け先の企業はその数を減らし、開発目的は狭くなり、何かと窮屈な要求事項に縛られている。

 米国軍需研究開発のスピルオーバーは、インターネット、コンピューター言語、ジェット・エンジンや原子力はもとより、ヘアスプレー、ビニール袋、気象衛星、GPS、携帯電話、夜間暗視装置に至るまで、枚挙にいとまがない。これらはみなふんだんな国防総省開発予算の賜物であるだけでなく、米国産業に競争力を与え続けてきた。国防総省開発予算が米国全体の研究開発力を支えてきたのであり、ひいては、それが米国の中で最も競争力に富む産業を形成し、雇用を生んだのである。

 国防総省開発予算の中でも「科学技術プログラム」という個別費目として計上される金額は、その多くが数学、材料工学など大学理工系学部の研究開発費用に充てられてきた。つまり、米国基礎科学を支えてきたのも国防総省である。ソフトウエア・電子技術者の10人に1人、物理学者の5人に1人、天文学者・数学者の4人に1人、航空工学エンジニアの3人に1人は、何らかの形で軍需産業に従事している。

 ところが、軍需関連開発予算は、スプートニク・ショック以来水増しされる慣行が根付き、いわゆる真水部分は名目金額より少ない。純然たる研究開発(R&D)に加え、試験と検証(Testing and Evaluation)を含むRDT&Eとして費目計上され、これがいわゆる国防総省開発予算として一般には論じられるが、その中で純粋な基礎・応用研究に充当される金額(いわば真水)たるや、今日では1割以下に過ぎない。にもかかわらず二段階の国防支出削減(2013年以降10年で4870億ドルの削減は既定。「財政の崖」が越えられず強制削減措置が発動になると、これに上乗せして4920億ドルが削られる)が実施されると、削りにくい人件費などに比べ、目につきやすいRDT&E予算が、まずやり玉に挙がるだろう。

 つとに、オバマ政権発足以来、2013会計年度における予算ベースの削減分までカウントすると、RDT&E予算は実質ベースで17%も下落している。この先、既定路線の削減分だけをみても2013~2017会計年度中、同予算は絶対額で80億ドル以上減る予定で、厚生省やエネルギー省が受け取る研究開発予算より、国防総省の開発予算の方が少ないという事態に直面する。この分では、過去15年一貫して国防関連開発予算を10%以上増やしてきた中国が同じペースを維持した場合、2023年に中国の軍需R&D予算は、米国のそれと並ぶか、追い抜くことになろう。


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