2024年5月17日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2022年1月31日

 米国政府もウクライナへのサイバー攻撃をみて衝撃を受けた。もし、同じような攻撃を米国が受けた場合、どれだけの被害が出るのか。CIAやNSAの専門家らが集まり慌ててリスク分析したという。

 本書によれば、ロシアのハッカーはダム施設や医療機関、原子力発電所のシステムへの侵入にも成功している。もし、米国がウクライナ問題で余計な介入をしたり、ロシア本土でサイバー攻撃をしかけてきたら、いつでも米国の社会インフラを止めて仕返しする用意がある、とプーチンは脅していたのだ。

「日本が手本」という指摘も

 こうしたサイバー兵器を巡る深い闇を伝えた後、本書は重要な社会インフラや政府機関におけるサイバー・セキュリティーの強化を訴える。諜報機関によるゼロ・デイに関する情報開示の在り方にも見直しを求めている。驚くことに日本が手本になるとも書いている。

Japan may even be more instructive. In Japan, the number of successful cyberattacks dropped dramatically—by more than 50 percent—over the course of a single year, according to an empirical study of data provided by Symantec. Researchers attributed Japan's progress to a culture of cyber hygiene but also to a cybersecurity master plan that the Japanese implemented in 2005. Japan's policy is remarkably detailed. It mandates clear security requirements for government agencies, critical infrastructure providers, private companies, universities, and individuals. It was the only national cybersecurity plan, researchers discovered in their study, to address “airgapping” critical systems.

「日本の例が参考になるかもしれない。日本では、サイバー攻撃による被害の発生件数が劇的に減った、わずか1年の間に50%以上も減った。シマンテック社による実証研究がまとめた結果だ。調査担当者たちは、日本が成果をあげた理由として、デジタル・セキュリティーに対して几帳面に対応する文化をあげている。そして日本が05年に導入したサイバー・セキュリティー・マスター・プランも一因だと指摘する。日本の方針はとても詳細だ。さまざまな関係者に向けて、とるべき対応を明確に示している。政府機関、重要な社会インフラの運営に関わる業者、民間企業、大学、そして個人に対してだ。先の調査担当者らによれば、国が策定するサイバー・セキュリティー計画としては唯一、重要なシステムをインターネットなどのネットワークから物理的に隔離する対策についてもふれていた」

 本コラムの筆者の得意分野からは外れるので、ここでは、日本のセキュリティー対策に対する好意的な評価を紹介するだけにとどめたい。社会のデジタル化が遅れているがゆえに、サイバー・セキュリティーが相対的によくみえる可能性はないのだろうか。

 本書は実は出版からすでに1年近くがたっている。21年2月28日付のニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーランキング(単行本ノンフィクション部門)で13位で初登場した。英国のフィナンシャル・タイムス紙が昨年暮れ、本書を21年のベスト・ビジネス書に表彰したのを機に、本書を手にとったところ、あまりの迫真のリポートに驚き、今回取り上げた次第だ。牧島かれん大臣をはじめデジタル庁の関係者にとって必読の書だろう。

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 いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。
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