2024年4月19日(金)

ルポ・被災農家の「いま」

2013年2月21日

 建物などが一切ないなかでのスタートだけに、加工場や事務所などを建てる必要が生じたが、ここで大きな問題が生じる。国の制度では、震災以前からある中小企業の事業再開を支援する補助金制度はあったが、2011年の時点では、震災後に立ち上げた企業への支援制度はなかったのだ。

「OHガッツ」を立ち上げ、「死ぬ気でやろう」と腹をくくった伊藤さん

 「もう後戻りはできないと、腹をくくった。多くの人を巻き込んで事業を行ううえに、大きな借金も抱えるわけだから。これからは死ぬ気でやろうと」

 スタートダッシュを確実なものにするために、OHガッツは、ユニークな取り組みも行った。1口1万円で募る養殖オーナー制度だ。オーナーを「そだての住人」と名付け、定期的に商品を送ったり、雄勝に招待し、養殖体験をしてもらうなどのプロジェクトを始めたのだ。その一方で、飲食店などに商品を直接卸すための営業活動も展開していった。まさに「六次産業化」と「漁業と観光の融合」への実践がはじまったのだった。

 こうして「OHガッツ」が、その一歩を踏み出した頃、雄勝の漁師たちに、大きな変化が起こっていた。漁協などを通じて補助金が支払われ、ようやく養殖業が再開できる状況になったのである。70人いた養殖業の漁師のうち45人以上が、漁を再開した。

まずは同じ方向を見ている人と

 しかし、危機意識のある若い漁師以外は「OHガッツ」の仲間になろうとする者はいなかった。「仲買に卸すほうが楽だから、従来どおりでいい」という選択をしたのだった。

 この漁師たちの動きを見て、伊藤さんは「自分たちのやろうとしていることは、雄勝の漁師たちのモデルケースにはならない」と感じていく。

 「見ている方向が違いすぎるんだよ。それで思ったんだよ、ならばまずは同じ方向を見ている人と組もうと」

 この意識の変化は、伊藤さんの視野を一気に広める契機ともなった。伊藤さんは、雄勝だけではなく、世界の三大漁業の一つである三陸沖全体に目を向け、そこで、自分たちと同じ方向を向く漁師たちとタッグを組む決意をしたのだった。

 「海外の水産業は右肩上がりの状態が続いている一方で、日本はオイルショック以降、下がりっぱなしなわけ。震災で壊滅的な被害を受けた、世界でも有数の漁場である三陸の水産業をこれを機に変えれば、日本全体の漁業が活性化することは明らかなんだ」


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