2024年4月27日(土)

ルポ・被災農家の「いま」

2013年2月21日

 「俺は漁協の組合員でもあるから、六次産業による売り上げは、漁協に報告し、売上の一部も払った。すべてを見える状態にしたわけ。でも、地元の漁師は『どうせ失敗するべ』っていう目で見ていたな」

「未来は20年縮んだ」

 こうした最中に、2011年3月11日の東日本大震災は起こった。

大震災で漁師をやめることも考えたが、「これはチャンスなんだ」と伊藤さんは前を向いた

 「全滅。俺、自分の家が流されるの見ていたもん。漁師をやめようと思ったかって? そりゃ思ったよ。でも、5日後ぐらいには『これはチャンスなんだ』と気持ちを切り替えていたね」

 商品を保管していた倉庫、漁具、漁船など、一切がなくなり、仲買も姿を消した。雄勝の漁師は、すべてを失った。それを見て、伊藤さんは「今こそ、皆が一丸となって六次産業化や漁業と観光の融合に取り組まないといけない」と、前を向いたのだった。

 こうした気持ちになったのは“焦燥感”も大きかった。

 「震災前、このままでは雄勝の漁業の未来はないと思ったわけだけど、震災後は『一気に未来は20年縮んだ』と感じたんだよ。立ち止まったら、あっという間に消えてしまう焦りは、あった」

 「今ならば、一緒にやってくれるはず」と、雄勝の養殖業に携わる70人の漁師に声をかけていくと、当初は賛同する漁師も少なくなかったが、救援物質などが多く届き出し、一定の生活が送れるようになると、風向きは悪いほうに変わった。誰も協力しようとしなくなったのだ。

 伊藤さんは地元漁師の協力はとりあえず見送り、友人の知り合いなどのツテをたどり、「ぜひやりたい」と賛同した6人の漁師と、マーケティングやマネジメントなどのプロ3人を集めた。

「OHガッツ」の立ち上げ
1口1万円で募る養殖オーナー制度

 こうして2011年8月、水産物加工販売会社「OHガッツ」は産声をあげた。


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