WEDGE REPORT

農協がTPPに反対する本当の理由
農業人口250万人なのに異様な政治力

山下一仁 (やました・かずひと)  キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

東京大学法学部卒業後、農林省に入省。農林水産省ガット室長、地域振興課長などを歴任。2008年農林水産省退職。10年より現職。経済産業研究所上席研究員を兼務。ミシガン大学行政学修士・応用経済学修士、東京大学農学博士。

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ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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 農業生産額に占めるコメのシェアは2割を切った。コメより生産額の多い野菜の関税はわずか数%、花の関税はゼロだ。関税撤廃でも影響を受けない。品質面では、日本のコメは世界に冠たる評価を得ている。その上、国際価格は上昇し、国内価格との差は小さくなっている。野菜だけでなくコメについても、輸出している農家が出てきた。米価を高くしている減反を廃止して価格を下げ、価格競争力をつければ、鬼に金棒だ。影響を受ける主業農家には直接支払いを交付すればよい。

 直接支払いはアメリカやEUも行っており、日本も91年の牛肉自由化はこれで乗り切った。関税撤廃で価格が下がっても、財政から直接支払いすれば、農家は影響を受けない。では、政府自民党がいかなる事態になっても農家を直接支払いで守る、その金に糸目はつけないと言ったらどうだろうか。それでも農協はTPP反対と主張するだろう。農協にとって価格が重要だからだ。

 米価は減反政策によって維持されている。現在、年約2000億円、累計総額8兆円の補助金が、税金から支払われている。国民は納税者として補助金を負担したうえで、消費者として高い米価を負担している。減反参加を受給要件とした戸別所得補償を合わせると、国民負担は毎年1兆円に上る。

 単収(単位面積あたり収量)が増えればコストは下がるが、減反政策によって、単収向上のための品種改良は行われなくなった。今ではカリフォルニアより日本の単収は4割も少ない。減反を止めると、生産は拡大し、米価は中国産やアメリカ産よりも下がる。主業農家へ直接支払いを交付して農地集積・規模拡大を図れば、生産コストは半減し、農家の収益は向上する。

 しかし、減反を止めて米価が低下すれば、農協の販売手数料収入が減少する。直接支払いを受ける農家は困らなくても農協は困る。TPPに参加し、海外から関税なしで安いコメが入ってくれば、減反という価格維持のカルテルは維持できなくなる。TPPなど、もってのほかだ。

 これまで、牛肉自由化など、農業に不利益があると予想される場合でも、我が国は大きな国益を考えて、政治的な決断をしてきた。しかし、今、目前に展開されている状況は、しっぽが牛の体を引きずり回しているありさまだ。

 広大なアジア太平洋地域で、参加国だけの間で貿易・投資を自由化するTPPができる。大企業なら工場をTPP地域内に移転できるが、それができない中小企業はこの地域から排除されてしまい、雇用が失われる。それで、本当にいいのだろうか?

[特集] なぜ、TPPに参加すべきか?

◆WEDGE2013年3月号より

 

 

 

 

 

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著者

山下一仁(やました・かずひと)

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

東京大学法学部卒業後、農林省に入省。農林水産省ガット室長、地域振興課長などを歴任。2008年農林水産省退職。10年より現職。経済産業研究所上席研究員を兼務。ミシガン大学行政学修士・応用経済学修士、東京大学農学博士。

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