世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年5月23日

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 4月18日付米New York Times紙で、James M. Acton米カーネギー財団上席研究員は、最近出された中国の「国防白書」には、これまで半世紀にわたり中国が言い続けてきた「核先制不使用」の言葉が欠落しているので、中国は核戦略を変えたとみることができる、と述べています。これに対して、4月22日付米Diplomat誌で、M. Taylor Fravel米MIT准教授は、「国防白書」の中身の体裁の変更はあるが、実質は何ら変わっていない、と言います。

 すなわち、アクトンによれば、今回の中国「国防白書」には、今まで中国が言い続けてきた「いかなる時もいかなる状況でも核兵器を先制使用しない」という言葉が見られなくなった。他国からの核攻撃への対応として核兵器の使用を認めただけではなく、核の先制使用も排除しない、曖昧な表現になっている。

 1964年の核実験以来、中国は、一貫して「核先制不使用」を核戦略の中心に据えてきた。そして、中国で「国防白書」が出された1998年以来、白書は常にこの核戦略を維持してきた。今回の変更は単なる官僚機構の技術的誤りではないだろう。内部で核戦略について広範な再検討が行なわれている可能性がある。

 最近、習近平総書記は第2砲兵隊を訪問した際、大国としての地位を戦略的に支えるものとして、核兵器の役割を強調し、核先制不使用には触れなかった。

 北朝鮮のミサイル発射実験に対する米国のMD(ミサイル防衛)強化に関する中国の反応にも関係があるかもしれない。もし将来、米国が北朝鮮の核施設を通常兵器で攻撃しようとしている、と中国が判断すれば、中国が核兵器を先に使用するということもあり得る、との含みを残そうとしているのかもしれない。更に、中国としては、米国のMDは北朝鮮のみならず、中国の通常兵器にも向けられる可能性があると考え始めたのかもしれない。

 いずれにしても、中国の核使用の可能性は現実にはまだそう高くはないが、今後は米中間でより広範囲な安全保障、軍事戦略について対話をもち、相互信頼醸成措置を講ずる必要があろう、と言うわけです。

 一方、フラベルによれば、アクトンの「国防白書」の解釈は間違っている。「核先制不使用」は毛沢東以来の核政策の根幹をなす。今日、もし中国が核兵器で攻撃されれば、中国は、打ち返すだけの小規模ながら効果的な核戦力を保有している。これは「信頼できる報復力」と呼べるものである。このような効果的な核戦略を維持しつつ、中国としては核先制不使用の方針を取り続けるものと見られる。

 もともと2000年頃から、中国では核先制不使用の宣言を止めるか否かをめぐって激しい議論が行われた。その後、この方針はそのまま持続するとの決定がなされた。

 もし、核先制不使用の方針を変えるのならば、もっと明確で直接的な説明があってしかるべきだろう。

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