2024年5月20日(月)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2022年10月28日

転機となった「白人国家」ロシアに対する日本の勝利

 それが定着するのが日露戦争である。日清戦争は、日本が近代戦での実力を示したとはいえ、所詮、日本と中国という非白人国同士の戦いでしかなかった。ところが、日露戦争は、欧州列強の中でも強国とされているロシアが相手である。もともと日露開戦前夜から開戦当初にかけては、判官贔屓から米国の対日世論は好意的であった。例えば、ニューヨークのある人気雑誌は「ロシアの3分の1の人口しかない日本では、ロシアの3倍の子供が小学校に行っているし、代議制でもある」と日本を称賛していた。

 そのような日本に好意的な世論は、日本が勝利し始めると米ブリンマー大学のキーズビー教授の「ロシアは白人を守るために重要な役割を果たしている」という発言に代表されるように日本脅威論へと変化したのである。シカゴ大学のフレデリック・スタール教授は「日露戦争は東洋と西洋の戦争であり、ロシアの敗北は黄色人種の勃興と白人の没落を意味する」とまで言い切った。

 日本政府は黄禍論の盛り上がりに無策だったわけではない。当初から日本政府は日露戦争が黄色人種対白人の争いと見られることを警戒し、清国とは中立を守り、また、日本は黄色人種の代表としてではなく文明国として戦っているとして、黄禍論を否定するため伊藤博文内閣で大臣を歴任し、ルーズベルトと面識もある金子堅太郎を米国に派遣するなど、広報外交を展開している。にもかかわらず、米国内では日中が共同して欧米列強に向かってくるという記事や発言が増えていった。

 日清戦争のころ欧州で生まれた黄禍論は、大西洋を越えて米国に伝わり、日露戦争を経て定着していった。このような根深いアジア人に対する偏見の歴史を鑑みれば、大谷翔平選手の活躍にあらゆる人種のファンが熱狂していることは、非常に感慨深い。

 次回からは、黄禍論がその後どのように今日まで展開してきたのかを順を追ってみていきたい。

『Wedge』では、第一次世界大戦と第二次世界大戦の狭間である「戦間期」を振り返る企画「歴史は繰り返す」を連載しております。『Wedge』2022年11月号の同連載では、本稿筆者の廣部泉による寄稿『今も米国に残る「黄禍論」 人種主義なる〝病〟と向き合うには』を掲載しております。
 
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