安倍首相は4月19日に記者会見を行い、成長戦略の第1弾を明らかにした。医療研究開発の司令塔・日本版NIH(米国立衛生研究所)の創設、医療機器の海外への売り込み、再生医療の実用化のための規制緩和促進、成長産業への再就職を支援する助成金の拡充、待機児童ゼロへの環境整備などである(2013年4月20日朝刊各紙)。
成長戦略については他に、産業競争力会議で、東京、大阪、愛知の三大都市圏での、国家戦略特区の創設が検討されている。目玉は、外資誘致と公共インフラの民間開放である。そのため、外国人医師の認可、都営交通の24時間運行、法人税の引き下げ、容積率の引き上げなどが提案されている(4月18日日経朝刊)。
成長戦略は何度も策定されているので、内容が予想されたものも多い。医療関係や容積率の拡大はそうだ。成長産業への再就職を支援する助成金の拡充は、前回の本欄でも述べたように、これまでの雇用調整助成金よりもずっとよい。クビにしなければ補助金を払うという雇用調整助成金では、雇用拡大の見込みのない職に労働者を縛り付けることになりかねないからだ。
自民党政治の大転換
私が意外に思ったのは、自民党が女性の社会進出と大都市の更なる発展を促進する政策を強調したことだ。
保育所の待機児童ゼロを5年間で実現するという政策は、女性の労働参加率を高め、労働力を増やす政策である。構造改革が好きな人が多いが、大きな効果のある構造改革を見出すことは難しい。大騒ぎをしてなんとか参加にこぎつけたTPPですら、GDPを3.2兆円、比率で0.66%拡大するだけである(内閣官房「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」13年3月15日)。10兆円という試算もあるが、政府の試算としなかったのは、追及されたときにうまく説明できない部分があるからだろう。さらに、アメリカの自動車関税の早期引き下げが難しいようであることから、3.2兆円の利益を得ることも難しいかもしれない。
それに対して、女性の労働参加の促進は、労働力が増えるのだから、必ずGDPを大きく増やす効果がある。私の試算によれば、日本の女性の労働参加率が英米独仏の平均になれば、日本の労働者数は9.1%増加する。間違いなくGDPを大きく増やす方策である。女性の能力を高めて、女性と男性の賃金格差が英米独仏の平均になれば、労働力が増大することと合わせてGDPは12.8%、金額でいえば60兆円以上増大する。労働力を活用することの効果は極めて大きいのである。