安保激変

2013年6月7日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

「大国間の新たな関係」の中身を模索

 現在の米中関係には、北朝鮮、中国が関与する領有権問題、中国からのサイバー攻撃などの安全保障問題から、経済・貿易関係、人権問題に至るまでの広汎な懸念事項が現実に存在する。

 安全保障の分野では、米国の政府機関や企業に対する中国発のサイバー攻撃や北朝鮮に対する中国の政策、南シナ海領有権問題および尖閣諸島をめぐる対応などは、米国が以前から様々なルートで中国に対するいら立ちを表明してきている喫緊の課題だ。経済面でも、6月4日に米商務省が発表した統計によれば、今年4月末現在の米国の対中貿易赤字は241億ドルに膨らんだ。「少なくとも270万人分の雇用が中国に流出している」(ロバート・スコット経済政策研究所貿易・製造業政策研究部長)という分析もある。中国の人権状況についても、両国の首脳が会うと、米側が問題提起をし、中国がこれに反論する、という状況は変わっていない。

 特に、中国発の米国に対するサイバー攻撃に対する最近の米国内での関心は極めて高く、この一件で、以前からくすぶっていた中国に対する警戒感が急速に表に出てきたと言っても過言ではない。前述のホワイトハウス高官によるブリーフィングでも、質疑応答の8割がサイバーセキュリティに関するものだった。このことからも、この問題に対する関心の高さがうかがえる。すでに両国間ではサイバーセキュリティに関するワーキンググループを発足させることで合意がされており、初会合が7月に予定されているが、オバマ大統領と習主席が、このワーキンググループ会合の開催とそこで行われる議論を後押しするようなメッセージを出せるかどうかが、今回の米中首脳会談の注目点の一つとされている。

 北朝鮮問題も重要だ。核兵器保有国化に向けて一歩一歩進んでいるように見える北朝鮮に対するこれまでの中国の対応は、「中国は北朝鮮に対して本気で向かい合っていない」「経済制裁の効果が中国からの支援の継続で大幅減」として批判されてきた。金正恩体制に移行し、ますます予測不可能な挑発行動に出る可能性が高くなった北朝鮮の現状を、中国が「問題がある」と明示的に認め、状況を是正するためにより積極的に北朝鮮に働きかけを行うことに同意するかどうかも、重要な見どころだ。南シナ海や、尖閣諸島を含む東シナ海における領有権問題を巡る中国の最近の対応も、当然、議論されるだろう。

シリアやイラン問題では
中国の協力を得たい米国

 こうやって見ていくと、今回の米中会談で議論の俎上に乗ることが予想される問題はいずれも、一度の首脳会談で結論が出る問題では到底ない一方で、米中の正面衝突を回避するためには、これらの問題を議論することは避けて通ることができず、しかも、対応を誤ると両国間の緊張が急速に高まるリスクを孕むものばかりであることが分かるだろう。

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