安保激変

2013年6月7日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 しかも、これらの問題で対立しているからといって、冷戦時代の米ソ関係のように、明確に中国を敵視するわけにはいかない。経済面では、米国が中国からの廉価な輸入に依存しているのと同じぐらい、中国も米国の市場を必要としている。また、米国の立場からすれば、国連安保理の常任理事国でもある中国には、シリア情勢やイランの核開発問題など、一見、米中関係に直接関係ないように見える問題でも協力してもらわなければならない。

 特にシリア情勢では、最近、目に見えてアサド現政権支持を前面に出してきたロシアと中国が結託してしまったら、国連安保理の場で何もできなくなってしまう。イランの核問題についても同様だ。つまり、米中は「対立したり、競合したりする問題領域があっても、そのほかの問題においては協力する能力を持つ必要がある」(ホワイトハウス高官)関係なのである。まさに「新しい大国間の関係」にどのような肉付けをするかを考えるとき、一番難しいのがこの点だ。

日本も中国に対する重層的アプローチを

 日本では米中首脳会談が行われる場合、なぜか「どちらの首脳がよりホワイトハウスに厚遇されたか」に関心が行きがちだ。今回の米中首脳会談も、2月の訪米で、正味2時間しか会談の時間を持てなかった安倍総理に比べ、場所こそワシントンでないとはいえ、夕食をはさんで丸一日、会談に時間を費やすということばかりに焦点が当たり、「中国重視にシフト」などという論調が出ることは想像に難くない。

 また、政策面では、尖閣諸島問題を巡り日中間が緊張していることもあり、米国にも、より強硬な対中姿勢を、より明確に出してほしいという期待もあるように見受けられる。したがって、今回の米中首脳会談で、オバマ大統領が習主席に対して「尖閣諸島に対する米国の防衛義務」について言及したのかしなかったか、についてもおそらく関心が集まることになるのだろう。

 しかし、日本が常に念頭に置かなければならないのは、米中は文字通り、世界を股にかけて外交上の駆け引きを行っているということだ。朝鮮半島や東南アジアは言うまでもなく、南アジア、オセアニア、中東、アフリカ、中南米など世界の至る場所で米中は何らかの懸案を抱えている。

 つまり、米中関係は、世界のどこか一地域に対する政策を巡る立場の対立だけで、「強硬」「宥和」と路線を完全に転換できるほど、単純な関係ではないのである。それどころか、近年では、米中間の経済力ギャップの急速な縮小に加え、サイバーセキュリティや宇宙空間の利用など、一昔前には想像もつかなかった安全保障上の課題まで浮上しており、複雑さは増す一方だ。しかも、日本にとっては米国が唯一の同盟国だが、米国は世界中に同盟国を持っている。誤解をおそれずに言えば、日本の懸念「だけ」にいつも気配りをしていられる状況ではないのである。日中関係も複雑だが、米中関係も別の意味で相当に難しいのだ。

 日本は、米中のやり取りの中で「米国が日本の立場を汲んだ行動をどれだけとってくるか」で米政権に「親日」「親中」とラベルを貼るのはそろそろやめた方がいい。むしろ、日本自身が、いかに中国に「日本とは、見解が対立している分野があっても、それ以外の問題では協力できないと、中国の国益にマイナスになる」と思わせることができるような、硬軟織り交ぜた重層的な対中政策を構築できるかを考えるべき時期に来ているのではないだろうか。

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