最近、中国で開かれたセミナーに参加して驚いたことがある。尖閣諸島に関する筆者のスピーチに対してコメントした若い研究者が、「友人の中には、国際法的には日本が正しいと思えると言う人もいる。一方で、歴史的に見れば、中国が正しく見える。だから議論が必要だ」と述べたのだ。これには筆者も驚いたが、同席していた中国人研究者たちはもっと驚いた。公の場で、政府の公式見解からはずれる意見を聞くことはまずない。しかも領土問題だ。進行役の中国人研究者が「さすが『バーリンホウ』だ」と言ったのを聞いて、中国に「バーリンホウ」に対するある種の認識が存在するのだと改めて理解した。「バーリンホウ」とは、1980年以降に生まれた世代を指す言葉で、「八〇后(後)」と書く。
「バーリンホウ」とは?
「ある種の」と述べたのは、「八〇后」に対する認識が必ずしも統一されたものではないからだ。そもそも、1980年以後に生まれたからと言って、皆が同様の状況下に在る訳ではない。「八〇后」と敢えて強調されるのは、その特徴が1979年に始まった人口規制政策(一人っ子政策)に基づくと認識されるからだろう。その他には、改革開放後の社会の中で育ったこと、愛国主義教育の影響を強く受けていること等の特徴が挙げられるが、ネット世代であることも重要な要因である。
また、忘れてならないのは、大学入学の門戸が広げられたことで、入試、奨学金獲得及び就職に関する競争が激化したことだ。高学歴者の中にも勝ち組と負け組が出来る構造が出来たと言える。彼ら/彼女らは、過酷な競争に晒される一方で、ネットから多くの情報を得、サイバー空間という議論の場所を持っている。更に、大学入学後に自費留学の経験を持つ者が多くなったことも特徴的である。そして、海外留学組は、海外で生活する中で、中国バッシングを肌で感じるという経験を持つ。合理的で束縛されない思考の奥深くに、中国が不当に扱われているという感覚に基づくナショナリズムを秘めている可能性があるのだ。
反日暴動の主役は誰だったのか?
日本でも、中国初の女性宇宙飛行士の年齢詐称疑惑報道があった。「中国政府が、昨年9月の反日暴動に参加した大半が『八〇后』だったことに鑑み、扱いにくい彼らに希望と模範を与えるために、1978年生まれの女性宇宙飛行士を1980年生まれにした」というのだ。しかし実際は、学歴の高い者はほとんど反日暴動に参加していないと言われる。彼らの間では、既に「愛国無罪」が免罪符にならないことが理解されているからだ。政府は大量に逮捕する必要はない。ほんの数名逮捕するだけで、その意味を示すことが出来る。デモ等に参加したことが記録に残されると就職が難しくなる。苦労して手に入れかけた将来を失いたくないのだ。失うものがある者は、ある意味、思慮深い。