こうした生産者らは、かつての「農家さん」のイメージからかけ離れており、中小企業などの経営者に近い。実は、筆者が他県でもこのような農業経営者に会うことは多く、この傾向は全国的なようだ。
農水省の2020年農林業センサスによると、全国の農業経営体数は2015年の137万7000から10年間で107万6000へと減少したものの、農産物販売金額規模別でみると3000万円以上の層で増加を見せる。5億円以上の経営体は42.4%増加している。
農家の高齢化が進み、離農する人が多く、農地が以前より集めやすい状況になっている。農産物価格低迷、資材高騰など厳しい農業環境の中、農家は経営者としての「稼ぐ力」を持ち、自助努力で未来を拓こうとしている。
目を向けるべき新たな「農家さん」
三重県いなべ市藤原町の山田陽一さんは、三重県桑名地域農業改良普及センターやJAみえきたの仲介で堆肥の利用など新しい施肥方法に挑戦している。これはウクライナ情勢などで高騰する化学肥料に対処するためでもあるが、「持続可能な開発目標(SDGs)に貢献できる試みとして、短期的な結果より長期的な効果を期待している」と話す。国が推進するみどりの食料戦略にも合致する取り組みでもあり、ピンチをチャンスに変える狙いだ。
将来の日本の農業は、「農家さん」ではなく、経営者が担っていくのだろう。このような経営者が育っているのは日本の農業にとって明るい兆候である。
日本の農家が高齢化し、手放す農地は、水田を中心にこれらの経営者に集まっていくと予想される。彼らは、共通して、情報入手に貪欲である。筆者が海外などに詳しいと分かると積極的に新しい情報を入手しようとしている。
今後の農政や農業としての産業構造はこうした新たな「農家」に目を向けていかなければならない。先述のとおり、彼らは、異業種からの参入も多く、経営者が経営を強化するのに、JAや普及指導員をはじめ行政などからは少し離れた立ち位置で必要な助言をし、伴走することも求められていると感じる。
悲観論ばかり農業界にあって、このような経営者が順調に育っていけば、日本の農業は明るいといえるのではないだろうか。
便利で安価な暮らしを求め続ける日本――。これは農業も例外ではない。大量生産・大量消費モデルに支えられ、食べ物はまるで工業製品と化した。このままでは食の均質化はますます進み、価値あるものを生み出す人を〝食べ支える〟ことは困難になる。しかし、農業が持つ新しい価値を生み出そうと奮闘する人は、企業は、確かに存在する。日本の農業をさらに発展させるためには、農業の「多様性」が必要だ。