ヒットメーカーの舞台裏

2013年8月8日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 求めやすい価格や高い燃費性能、さらに乗りやすさなどが評価され、2012年度には排気量401cc以上の大型バイク市場で米国のライバル社を抑えてトップになった。派生モデルを含む同年度の販売台数は約5100台と、目標の3500台も大きく上回っている。

 価格は64万円台からで、12年2月の発売時はホンダの400cc級の製品よりも安く、バイクファンを驚かせた。開発の指揮を執ったのはホンダの研究開発部門である本田技術研究所の二輪R&Dセンター上席研究員、青木柾憲(58歳)。入社以来、米国の研究所勤務時代も含めバイク開発一筋であり、責任者として手掛けたモデルだけでざっと20台に及ぶ。数々のヒット車を生み出したベテラン技術者だ。

大型バイク 「NC700X」

 青木に開発の指示があったのは08年3月。いわゆるナナハン(排気量750cc)級で既存車より30%のコスト削減を図るという内容だった。トップメーカーとして、国内バイク市場の長期低迷に何とか手を打ちたい、という狙いがあった。排気量251cc以上の中型・大型車の市場は1980年代半ばに15万台規模だったのが、08年には3分の1まで縮小していた。

 需要が縮むので量産効果が薄れて価格は上昇、するとユーザー離れが加速―といった負のスパイラルを断つため、コストからアプローチしようというわけだ。しかし、これほど具体性に欠ける開発方針は、ホンダでも異例だったという。

 そこは百戦錬磨の青木。「コストさえ下げれば何をやってもいいのだろう」と解釈し、プロジェクトを立ち上げた。「好きにさせてもらう、という感じですよ」と、青木は悪戯っぽく笑う。とはいえ、数十人の技術者が参画するプロジェクトだけに、「コスト低減」だけではベクトルは定まらない。自由度が高いと、逆に目指す製品像がなかなか見えて来ないのだった。青木には「好きにできるというのに、多くのメンバーが既成概念に縛られている」と映った。

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