しかし、その一方で、とくに今年に入り、米国有力メディアの間で、「米中対立深刻化は米国の利益に反する」として、「デカップリング」批判の論調があいついだ(「バイデン政権が進める対中強硬は国益なのか」参照)ほか、中国との経済的結びつきも強い日欧諸国の間でも、対中強硬路線の見直しを求める動きが出始めたことから、西側陣営としての今後の対応に関心が集まっていた。
そうした時期が時期だったために、タイミング良く開催されたG7広島サミットは、ウクライナ問題のほか、台湾問題を含めた対中国戦略について参加国間の考えを調整する絶好の機会になったことは間違いない。
そして、7カ国首脳の結論として打ち出されたのが、過度の対中経済関与がもたらすリスクを少しでも減らす「ディリスキング」という〝苦肉〟の表現だった。
東南アジアも巻き込み動き出す
こうした西側陣営の新たな取り組みの背景について、米ブルンバーグ通信は去る5月30日、以下のように報じている:
「最近の『デカップリング』ではなく『ディリスキング』という言い換えは、中国とのビジネス取引遮断を心配する西側同盟諸国を念頭に、より穏当な表現で妥協したいとするバイデン政権の意向を反映したものだった。これまで国家安全保障を理由に、中国から最先端技術をはく奪しようとするワシントンの試みは、中国との〝新たな技術冷戦〟(new technology cold war)の懸念をかきたててきた」
「もともと『ディリスキング』という概念は、去る3月、ウルズラ・フォンデアライエン欧州連合(EU)議長が習近平国家主席との会談のため訪中する際の演説で明らかにした。同議長は、①中国との関係切り離しは当を射たものではなく、欧州の利益にも合致しない、②われわれは今後、decoupleではなくde-riskに照準を合わせるべきだ――などと述べた。折しも、米軍機による中国スパイ気球撃墜事件に続く、ブリンケン米国務長官の北京訪問中止などで外交関係冷却化の不安が高まっていたため、中国との緊張緩和に狙いがあった」
「バイデン政権は、時を待たずしてこれに呼応した。ジャネット・イエレン財務長官は翌月、テレビ番組の中で『われわれは中国経済との切り離しを追及するつもりはない』と明言したのに続き、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)も『わが政府はdecouplingではなく、de-riskingとdiversifying(多様化)を求めている』などと述べ、これが、5月の広島G7サミットでの共通した意思表明につながった」
早速、中国との関係切り離しではなく、リスク軽減にシフトしたG7の新たな方針は、去る5月27日、28日の両日、米国デトロイトで開催された米国主導の14カ国が参加する経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)閣僚会合の場でも具体的に反映された。
IPEFには日米韓、豪州、インドなどのほか、東南アジア諸国連合(ASEAN)からも7カ国が加わっており、今回の会合で特に注目されたのが、ハイテク関連で半導体、鉱物などの重要物資の中国依存を下げるために、関係各国でサプライチェーン(供給網)強化策での協力を確認しあった点だった。
もともと、IPEFは①貿易、②サプライチェーンの強化、③エネルギー安全保障を含むクリーン経済、④脱汚職など公正な経済の4つの分野での協定締結を目標に掲げてきたが、このうち、サプライチェーン協定を先行させる形で合意した。