2024年5月19日(日)

古希バックパッカー海外放浪記

2023年7月30日

景勝地のキャンプ場で暮らす定年後の生活とは

スプリング・クリークのキャンプ場の長期滞在専用スペースの一部。最長は 7年住んでいる夫婦。手前のキャビンの夫婦は既に4年滞在

 スプリング・クリークとクライストチャーチ空港近くの2つのキャンプ場は双方ともに好立地で繁盛していたが、たまたまマネージャーと話す機会があった。

 どこのキャンプ場でも牽引式キャビンカーを固定して垣根で囲ったり周囲に花壇を設けたりして数カ月から数年も長期滞在しているキャンパーを頻繁に見かける。2人のマネージャーの見解をまとめるとキャンプ場は夏季が繁忙期、冬季が閑散期と波がある。他方で気に入ったキャンプ場で冬季も含めて長期滞在したいという引退した人たちの需要もある。長期滞在には大幅な割引を適用しているが年間通じて安定した収入を確保するためにキャンプサイトのスペースの20~30%は長期滞在者と契約している。

 一般にキャンプ場の長期割引レートは賃貸アパートの家賃の4分の1から3分の1程度なので自宅のアパートを貸してリゾート地のキャンプ場で暮らす年金生活者(pensioner)は多いとのこと。

NZの住宅事情、建売住宅の驚くべきスタンダード

 クライストチャーチ、インバーカーギル、ダニーデンなどの都市部の住宅街を自転車で走っていると一軒家の道路に面した駐車スペースが広いことに気づく。そして大半の住宅に車、キャンピングカー、モーターボートが並んでいる。

 都市の郊外の不動産会社が開発した新興住宅地では市街地よりもずっと庭が広い。クライストチャーチ郊外の新しい住宅地はまるでゴルフコースのなかに住宅が点在しているようだった。そしてコンクリートの駐車スペースには車が2台とキャンピングカー、モーターボートが置かれていた。

 大手不動産会社のピクトン支店でマネージャーに聞いた話では郊外に住宅地を開発して建売住宅を建てる時に駐車スペースは車2台+キャンピングカー+ボートを置けることが標準設計仕様との説明。

 昨今東京近郊では一様に細長い3階建ての建売住宅が増殖している。そして1階には車1台がやっと駐車できるスペースが標準仕様になっていることを思い出した。

ヨット・ボートが1200隻係留されている人口4400人の港町

ピクトンのマリーナ。セキュリティーが万全で係留している桟橋へ行くゲートは会員カードがないと開かない。またボートを牽引してマリーナに来るビジター用に専用駐車場・専用ランプ・巻き上げ機などが設置されている

 4月14日。南島最北端のピクトンのマリーナ。散歩していたらヨットやボートの売買ブローカーのオフィスがあった。日本ではヨットやボートを所有することは富裕層のなかでも極めて限られた人達だろう。お金持ちであるだけでなく船舶を操縦する技術と気象・海象の知識、さらにはある程度の経験がないとフィッシングやクルージングを楽しむことはできない。

 マネージャーの60歳くらいの男性によるとNZではヨットやボートを所有することはフツウのことらしい。人口4400人のピクトンの町にはマリーナが三か所あり現在1200隻が係留されているが、拡張工事が完成する来年には1400隻係留可能になるという。

 マネージャーによると自宅の庭にボートを置いている家も多いのでピクトン全体では1500隻くらいのヨット・ボートがあるのではないかと。確かにNZでは海だけでなく湖や川でもフィッシングが楽しめるように自宅にボートを置いて車でボートを海や湖水まで牽引している人が多い。つまりピクトンでは3人に1隻の割合でヨット・ボートを所有している計算となる。

 ピクトン市外在住者がマリーナに係留しているケースもあろうが、それほど多いとは思われない。NZでは海辺の町には必ずと言っていいほどマリーナがあるからだ。

 マネージャー氏はNZ最大の都市オークランドはヨット・ボート登録台数が世界一(注:2019年時点で登録台数14万という数字がある)であり、さらにNZは総人口比のヨット・ボート所有割合が世界一と胸を張った。

海洋国家NZの背景

 NZは世界最高のヨットレース“アメリカスカップ”では過去4回優勝し直近では2大会連続優勝を果たしている。アメリカスカップは参加するだけで莫大な費用がかかり各国のチームは王族、大富豪、大企業などがスポンサーだ。

 ブローカーのマネージャー曰く「アメリカスカップは各国対抗戦だがいずれのチームも中心メンバーはキーウィ(NZ人の愛称)だ。ヨットレースの戦術を指揮する司令塔であるスキッパー(艇長)もキーウィが多いよ」

 日本もかつてニッポンチャレンジとして3度アメリカスカップに挑戦したが、スキッパー以下クルーの大半はNZのヨットマンであったことを思い出した。

 マネージャーによると第二次大戦後に余暇にボートやヨットを自宅のバックヤードで手作りすることが流行り、それがNZのマリーンスポーツ興隆につながったという。マネージャー氏も父親を手伝って何隻もボートやヨットを作ったので今でもヨットの修理くらい朝飯前と自慢した。
NZを自転車で走ってみてNZには日本とは別次元の領域での豊かさがあるように感じた。求める豊かさのベクトルが異なっているのだろうか。

クライストチャーチ近郊の「こどもキャンプ場。ボーイスカウト・ガールスカウトのような地域活動の専用キャンプ場。当日は練習用一人乗りヨットの訓練プログラム。池の端には安全ネットが張られて、救命ボートに乗ったライフガードがスタンバイして いる

以上 第10回に続く

   
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