2024年5月20日(月)

Wedge REPORT

2023年8月6日

 業者選木は責任施工であり、業者の信用が前提である。だから森林所有者が間伐前、間伐中に作業を見に行くことはほとんどない。それで間伐後に見に行ったら、盗伐されたような状態になっているのだ。

 それが普通の林業事業体の施工ならまだしも、森林組合の施工でも発生する。森林所有者は自分たちの森林組合だと信用しているからショックと怒りは大きい。かくして森林経営は他人任せにはできないと、自伐林業を志す森林所有者が現れた。特に若手や女性が多く、各地でこのような声を聞いた。

 国庫補助事業にかかる間伐で、このような盗伐まがいの行為が平気で行われているのは、林業従事者のモラルの低さの表れであり、これはある程度慣習的なものである。人が見てないからするネコババみたいなもので罪の意識は低い。それを指示する林業事業体の経営者だけでなく従業員も同罪である。

 商売の基本が信用であることをまったくわかっていない。本気で信用づくりに励まない限り、林業界に明日はない。

間伐の現代的問題点

①搬出補助

 間伐でもっとも評判の悪いのが、林内に放置された間伐木、すなわち林地残材である。写真2のような使えそうな木まで捨てられているので、資源の無駄に見えるからだ。しかし、これらの木をここから搬出して木材市場や製材所に持ち込んでも、販売価格が搬出費より低く赤字になってしまうのだ。

 そこで資源の有効利用と林業事業体や森林所有者の収入を少しでも増やすために搬出補助金が設けられている。

 林業事業体や森林所有者にとってはいいことなのだが、品質の劣る丸太が出回ると市場メカニズムを破壊する恐れがある。

②林地残材の置き方

写真 3:水平方向に林地残材を置く 写真を拡大

 最近、間伐の効用として、林内照度(林の中の明るさ)を高めて下層植生(低木や草)を繁茂させ、土砂の流亡を防ぐことが重視されている。いかにも分かりやすそうな理屈だが、筆者は林野庁得意の机上理論だと思っている。

 下層植生ばかりに注目して、土砂流出防備の主役である林木が構成する根系網をないがしろにしたのでは、本末転倒もはなはだしい。ただし、傾斜のきつい個所では、写真2のように林地残材を放置するのではなく、写真3のように水平に置くことによって、降雨時に土砂を止めることができる。特に保安林などではこうした配慮が必要であろう。

③林地残材の効用

写真 4:ヒノキ残材上のモミ稚樹更新 写真を拡大

 無駄に捨てられているように思われる林地残材であるが、腐って土に帰れば地力の維持に役立つほか、天然木の更新(再生)基盤となる。写真4はヒノキの人工林で行った間伐の残材に天然のモミが更新している状況である。

 現場は高尾山で奥多摩の天然林にはモミが多く自生しているので、その種が飛来したのであろう。針葉樹の天然林によく見られる倒木更新と同じであり、うまく育てることができれば、森林施業の多様化に役立つであろう。


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