2024年5月20日(月)

「永田町政治」を考える

2023年9月3日

 問題は木原氏だ。

 首相の腹心、官邸の番頭ともいうべき大物副長官だけに、首相が〝泣いて馬謖を斬る〟決断ができるか。留任させれば、臨時国会論戦で野党の標的にされるのは必至だ。

 党内の一部には、更迭論も少なくない。留任させれば、火ダネになることは避けられまい。

改造利用した〝危険人物〟放逐は常套手段

 木原氏が更迭されれば、途中辞任ではなく、通常の交代人事という印象を与える効果が期待できる。 改造を利用して、好ましくない人物を事実上放逐するのは、人事権者たる首相が用いる常套手段だ。過去にも例がみられる。

 民主党の菅直人内閣の2回目の改造が典型だ。

 2010年6月に発足、同年9月に1回目の改造、翌年1月に早くも2回目を行った。参院で問責決議を突きつけられた仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国交相の更迭が主な目的だった。

 仙谷氏は自衛隊を「暴力装置」と呼んで批判をあびた。馬淵氏は、尖閣周辺で起きた中国漁船による巡視船体当たり事件のビデオ流出の責任を問われた。流出元が現職海上保安官であり、国交省が海上保安庁を統括するためだった。

 前回からわずか半年、政権のかじ取り役だった仙谷氏のクビを切るのは苦しい決断だったろう。通常国会での予算審議への影響を考慮したようだ。

 後継として11年に登場した同じ民主党の野田佳彦政権は、前任同様1年余の短命にもかわらず、改造を行うこと3度を余儀なくされた。特に前回からまだ5カ月の12年6月に断行した2回目は深刻だった。

 前田武志国交相と田中直紀防衛相が更迭されたが、前田氏は選挙区外の県の市長選で特定候補の支援を依頼する文書を配り、公選法違反の疑いが指摘されていた。

 故田中角栄元首相の女婿である田中氏は、安全保障への知見をまったくといいほど持ち合わせず、国会答弁はしどろもどろ、野党の集中砲火を浴びた。更迭されて当然だったが、最も安堵したのは、ほかならぬ本人だったろう。

 これに懲りたのか野田首相は後任に民間から安保問題の専門家、森本敏拓殖大学教授を起用、万全を期した。

王道の政策遂行型、過去にも多くの例が

 不本意な〝守り〟ばかりの人事では、精彩を欠く。人事権者の首相にとっても力が入らない。それぞれのポストに適材を配置して重要な政策課題に取り組む体制を築くのが、組閣・改造の本来の目的だ。

 職務遂行型は、改造だけでなく、新内閣の発足、現職首相が総選挙に勝利して、再び組閣する際にも少なからずみられる。

 まず思い浮かべるのは安倍内閣の集団的自衛権行使容認に向けた布陣だ。

 安倍氏は5年余のブランクを経て12(平成24)年9月に自民党総裁にカムバックした際、すでに集団的自衛権容認へ舵を切ることを決断しており、高村正彦氏を副総裁にすえていた。自民党にも慎重論があるのを考慮、弁護士出身で法律解釈に明るく党内ににらみのきく高村氏を起用した。

 行使容認を盛り込んだ安保関連法案の国会提出にあわせて14年の第3次内閣発足で、防衛相に自衛官出身の中谷元氏を任命した。同じく頻繁に答弁を求められる外相には、今の首相、岸田氏を17年の改造までとどめた。 

 中谷氏の起用時は改造ではなかったが、組閣といっても、首相が変わらないのだから、実質的には改造というべきだろう。岸田氏は当時すでにポスト安倍の有力候補。安倍氏はその安定感を買って、歴史的な政策変更を遂行するチームの一翼を担わせたようだ。

 このあたりの経緯は、安倍氏が亡くなってから出版された「安倍晋三回顧録」で氏自身が詳細を語っている。


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