2024年5月22日(水)

Wedge REPORT

2023年11月23日

 このクマ剥ぎが近年急速に拡大している理由は、母グマが樹皮を食べると子グマも真似をして、次々と子孫に伝授されていくからである。クマは子を教育しているのだ。

 しかし、この教育がクマにとっては仇となる。被害の対象が樹木なら泣くのは森林経営者だけであるが、今年のようにクマが町場に出没して、柿や栗などの果樹、人の残飯、倉庫に入れた米などの農産物、畜舎の飼料などを食い荒らし、出くわした人に危害を与えるようになると、この行為がすべて親グマから子グマに伝授される。テレビでも子連れのクマがよく放映されている。

 こうなると味をしめたクマたちは、町場に定着するだろう。かつては人に追い詰められて奥山でしか暮らせなかったことなど、子グマにはわからない。食べ物が豊富で、平坦で、遮蔽物の多い住宅地は、森林と同じかそれよりも暮らしやすい。

 30年ぐらい前、青森県の下北半島でツキノワグマの保護活動をしている方を訪ねたことがあった。クマに発信機をつけて行動調査をしていたが、夜間には国道を移動していると聞き、そりゃあクマでも便利な方がいいよねと笑ったものだった。

 ツキノワグマは一夜に30キロメートル(km)移動するという話も聞いたことがある。これも道路を利用しての話だろう。

野生動物の市街地進出は一般的傾向

写真 2 ハクビシンのため糞(東京都豊島区、筆者提供)

 20年あまり前に秋田市に住んでいたころ、国の天然記念物であるカモシカの目撃情報をよく聞いた。市内の丘には樹木の繁った公園があるが、朝の散歩でカモシカに出会ったというものだ。

 また、秋田市の玄関口である秋田駅の東口はまだ開発される前に、秋田森林管理局の宿舎がアパート団地風に建ち並んでいた。そんな市街の中心部にも早朝カモシカが現れて、ゴミ箱をあさっていたというのだ。

 東京でも荒川などの河川敷をつたってイノシシが現れ、出くわした人が体当たりされたり、噛まれたりする事件が起きる。もっと小型のタヌキやハクビシン、アナグマ、外来種のアライグマに至っては、人に危害を加えることが少ないので話題に挙がることは少ないが、都会に巣くう野生動物は物凄く増えている。

 わが家でもハクビシンにピラカンサの実を一夜にして食べられて、樋(とい)にため糞をされた。実はこれらの小型、中型の野生動物は、クマの都会進出の露払いみたいなものである。

変わっていった里山の姿

 確かに識者が言われるように、里山はクマと人の境界だった。里山と言ってもその実態は今のわれわれが想像するような自然豊かな広葉樹の森ではなくて、人が燃料として、生活用の資材として、農業用の肥料として伐採を繰り返して、地力は衰え、やせ地に強いマツや低質広葉樹が生える疎林だったと思った方がよい。


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