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2017年10月27日

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田中淳夫 (たなか・あつお)

ジャーナリスト

静岡大学農学部卒業。出版社、新聞社を経て、主に林業を中心に取材・執筆。著書に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)など多数。

 全国で増大する野生鳥獣による農作物被害。実は1980年以前は目立たなかった。ところが次第にイノシシ、シカ、カモシカ、サル、クマ、さらに外来のハクビシン、アライグマなども加わって、21世紀を迎えた頃から爆発的に増え始める。

(イラスト・マグマジャイアンツ)

 被害額のピークは2010年の239億円。近年は各地で獣害対策に本腰を入れ始め、15年は176億円と漸減傾向にある。ただ、この数字は小規模な被害や家庭菜園など作物が市場に出ないものを含まないことが多い。また林業地の食害や皮剥ぎ被害も表に出づらい。実態は表の数字の5倍という推定もある。

 獣害が収まらないのは、生息数が増えたからだ。環境省によると13年のニホンジカの推定数は約305万頭、イノシシが約98万頭(いずれも推定中央値)。なお北海道のエゾシカは約45万頭(16年)とされる。イノシシは近年横ばいだが、ニホンジカは23年に453万頭に増えると推測されている。

なぜ、シカやイノシシは増えたのか?

 なぜ、これほど増えているのだろうか。イノシシは多産で、一度に5頭以上の子を産むことも珍しくない。一方シカの出産はたいてい1頭だが、生後1年で出産可能になり毎年産む。親、子、孫、曾孫……が毎年産むのだから、増殖率は馬鹿にならない。

 産んでも死亡数が多ければバランスが取れるが、近年下がり気味だ。死亡率の高い冬の間が越しやすくなったからと思われる。温暖化の影響もあるが、餌が豊かになったことが指摘される。

 戦後荒れていた山林が成熟してきて、森林蓄積はかつてないほど高くなってきた。スギやヒノキの人工林は餌がないと思いがちだが、林間に低木や草が生い茂っている。枝葉や実だけでなくデンプンをため込んだ根を持つ草木も多く、餌が豊富になったのだ。また過疎化で耕作放棄農地が増えたことや、林道の草が生えた法面(のりめん)もよい餌場となっていた。

 栄養状態がよくなれば寒い冬も越しやすく、けがや病気にも強くなる。そして出産率も上がる。この悪循環で日本列島はある意味、野生動物の楽園になりつつあるのだ。

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