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2017年4月24日

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中西準子 (なかにし じゅんこ)

産業技術総合研究所名誉フェロー

産業技術総合研究所名誉フェロー。専門は環境リスク論。東京大学工学系大学院博士課程修了。東京大学教授などを経て、2010年、文化功労者を受賞。『環境リスク学』(日本評論社)で毎日出版文化賞受賞。

 毎日のようにマスメディアで論じられている東京都・築地市場(中央区)の豊洲への移転問題の混乱は、小池百合子知事が豊洲市場(江東区)の安全に疑問を呈したことから始まった。豊洲市場の安全は科学的にも、法的にも担保されているし、どうみても築地には古さからくる多くの問題があり、豊洲移転以外の選択肢はあり得ないが、迷走を続けている。

 

 豊洲市場などのように、汚染された土地を再利用する場合の法律は土壌汚染対策法であるが、環境省が作った解説書には、「土壌汚染があったとしても、摂取経路が遮断され、きちんと健康リスクの管理ができていれば、私たちの健康に何も問題はありません」と書かれている(2016年8月「土壌汚染対策法のしくみ」)。豊洲市場では、地下水を一切使用しないので、「摂取経路が遮断され」に該当し、法律上は飛散防止だけでよく、地下水質の測定義務もない。

 豊洲市場の混乱の原因の第一は、多くの人が市場でこの地下水を使うと思っていたことである。余りにも度々地下水質を分析し、環境基準値を超えるかどうか吟味していたために、汚染地下水が問題だ、大変だと多くの人が思ってしまった。

 それと、かつて汚れた土地だったということに加え、途中で、土壌中にベンゼンやヒ素などが高濃度で見つかったという報道があったことから、地下水が汚染されて大変だという心配に繋がったにちがいない。汚染物質があることと、健康リスクがあることは別であるし、摂取経路が存在しなければ、健康リスクがないのだが、皆がこういう考え方を知らなかったことで、問題が大きくなってしまった。

 今に至っても、汚染物質が少し残っているのではないかなどの追及をしている人々がいるが、これを除去しても、健康リスクは減らない。それだけでなく、追加の対策を実施することで、環境リスクは増加してしまう。なぜなら、こういう工事は、お金と資源を使うことになるが、それを作る過程で、別の箇所で環境リスクを必ず作り出しているからである。お金を使うことに加え、豊洲の土壌のように除去する必要のないものを除去すれば、新たにそれを廃棄する場所も必要になる。全体のリスクが最小になるように、プラスとマイナスのリスクのバランスをとることが最善なのである。

 小池知事は、豊洲市場は安全だが、都民は安心していないのではないかと言っているが、安心してもらうためにという理由で、追加の土木工事などを加えるのは絶対にやめてほしい。

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