2024年5月3日(金)

プーチンのロシア

2023年12月8日

 ウクライナ国防省のキリロ・ブダノフ情報総局長の妻が11月末、何者かに毒を盛られて重金属中毒に陥っていた事実が明るみに出た。犯人の素性は依然不明だが、同国当局はロシアによる仕業との見方を強めている。検査では、水銀やヒ素といった、通常の生活サイクルでは決して見つかることがない物質が確認された。

(Trifonov_Evgeniy/gettyimages)

 ロシアをめぐっては、政権に逆らった反体制派活動家やジャーナリスト、元スパイらが毒物で殺害されたり、生き延びても深刻な障害を抱えることになった例は枚挙にいとまがない。毒物を使う手法は時にあからさまで、国際社会に見せつけるかのような手口が取られるケースが少なくない。一方で、毒物を使った犯罪は多くのケースで犯人の特定が困難で、ロシア側は決して関与を認めることはない。

 旧ソ連の治安機関が、政権に敵対する人物に毒物を利用する手法を本格的に研究し始めたのは、レーニンの時代であったとされる。そのような手法が依然として使われ続けている事実は、ロシアという国家の体質が旧ソ連とは大きくは変わらないという現実を見せつけている。

妻を標的に

 「情報総局長に手を出すことができなかったから、その妻を狙ったのだろう」

 情報総局のアンドリー・ユソフ報道官は仏AFP通信に対し、事件の背景をそう推察した。ブダノフ情報総局長の妻、マリアンナさんは水銀とヒ素による中毒が確認されたが、食べ物を通じて体内に入った可能性が高いという。

 ブダノフ氏はウクライナ国防省の情報部門トップであり、ロシアが占領するクリミア半島とロシア本土を結ぶ橋に対する攻撃など、数多くの対ロシア作戦の立案、実行に関与してきたとされる。ブダノフ氏をめぐっては、暗殺未遂が繰り返されていて、6月には実際に、ロシア軍の攻撃で重傷を負ったとの情報も浮上していた。

 現在は、安全のため妻とともにオフィス内で生活していたといい、いつ、どこで、マリアンナさんが毒を盛られていたのかは不明だ。マリアンナさん自身は国立警察学校の教授で、キーウ市のクリチコ市長の顧問も務めた経歴を持つなど、ブダノフ氏を支える存在だった。

 マリアンナさんが中毒症状を起こしたことが、ロシア側の仕業によるものかは依然不明だ。ただ、ブダノフ氏が対ロシア作戦の中枢を担っていたのであれば、同氏を妨害しようとした勢力による犯行であると推察するのが妥当だ。


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