2024年5月17日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2023年12月9日

甘味はストレス解消か?

 私たちは甘味、塩味、酸味、苦味、うま味、脂味の6種類を感じる。甘味はエネルギー源として重要な糖質の味で、だれもが好む味である。うま味と脂味はタンパク質と脂肪の味で、これも重要な栄養素なので美味しいと感じる。塩味は身体に必須である塩分の味で、適量なら美味しいと感じる。酸味は腐敗した食品の味、苦味は化学物質の味で、子どもは嫌がるが大人は経験の中で美味しく感じるようになる。

 美味しいと感じるのは食欲という生存本能から生まれる感覚だが、まずは食欲とストレスの関係を紹介する。肥満症のラットは血中βエンドルフィン量が多い。βエンドルフィンは幸福感を引き起こし、痛みやストレスを緩和する物質だが、その作用は拮抗薬ナロキソンで抑制される。

 そこで肥満症のラットにナロキソンを与えたところ、食欲が低下して肥満が抑制された。さらに、ラットにストレスを与えると食欲が増した。そしてナロキソンはこれも抑えたのだ。

 ということは、食べるとβエンドルフィンが分泌されて幸せを感じる。また食べることでストレスが緩和する。するとまた食べたくなる。そんな経路が見えてくる。

 しかし、ストレスが食欲を増やすという話にはすぐに「待った」がかかる。ストレスは食欲をなくすことを私たちは経験しているからだ。

 これはストレスの持続時間で説明されている。ストレスは交感神経を刺激して血糖値を増やし、食欲を抑えるが、ストレスが短時間で解消すると副交感神経が働いて食欲が増す。ストレスが長期間続くと交感神経の緊張状態が続いて消化管の運動が止まってしまい、食欲が低下するのだ。

甘いものは別腹?

 次は過食症の人にナロキソンを与える試験だ。すると食事の摂取量はあまり変わらないが、砂糖と脂肪が多い美味しい食品の摂取量が減ったのだ。甘いデザートはβエンドルフィンを増やす作用が強いこと、そしてナロキソンによりβエンドルフィンの効果がなくなると満足感がなくなり、食べる量が減ると考えられる。

 砂糖はβエンドルフィンだけでなく、快感を引き起こすドーパミンも放出する。これらの結果から、甘味はβエンドルフィンやドーパミンを増やすことで幸福感や快感を増し、ストレスを緩和すると考えられる。

 砂糖がなかった昔と違って、現在はいくらでも手に入る。甘い食品を大量に常習的に摂取すると甘味依存症を起こし、過食と肥満を増やすとも考えられている。砂糖だけでなく非糖質甘味料であるサッカリンもまたラットでコカインより強い依存症を引き起こすことから、これは砂糖の作用ではなく、甘味の作用であることが証明されている

 ここでやっと「甘いものは別腹」の答えが見えてきた。問題は砂糖ではなく甘味であり、私たちは程度の差はあれ甘味依存症になっているため、満腹になってもなお甘い味を求める。


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