2024年5月15日(水)

田部康喜のTV読本

2023年12月31日

 投球では、球の回転や速度、打者に対してどのような角度で変化するかなど、科学的に分析する。大谷はその数値をみながら1球1球確認しながら、何度も投げ込む。

 23年シーズンの大谷の投球のうち、半分近くが「スイーパー」だった。右バッターから見て、昨シーズンは右に35㎝スライドした。今シーズンはさらに8.9㎝スライドしている。

 ジャーナリストのトラビス・ソーチックは「デザイン革命は強い好奇心から生まれる。大谷が異次元の世界に入った理由である」と指摘する。

 打撃のデザイン革命はどうか。ピッチングマシーンの背景に投手の姿が映し出される。メジャーリーグの850人以上のピッチャーの球の握りや軌道をAIが再現する。大谷は打席には入らずに、その球の軌道をそばでみつめる。

 大谷はいう。「ピッチング練習を見ているみたいなものですね」と。

 この装置によって、大谷は23年シーズンの本塁打数を飛躍的に伸ばした。腕の筋の断裂による離脱がなければ本塁打王の44号の記録を伸ばしたことだろう。

 ホームランバッターは、アッパースイングである。このために高めの球が打ちづらい難点がある。

 大谷はデータを駆使し、打撃を微調整して克服した。大谷にホームランを打たれた相手投手に「今までなら(あの高めの球で)抑えられたのに」と悔しがらされた。ホームランバッターのひとりは「(打撃の)デザインには普通なら2、3年かかる」と大谷の修正力に驚いている。

〝代償〟と記録の狭間で

 「デザイン」は、代償を伴う。大谷の腕の筋の断裂に現れている。

 腕の筋の再生技術であるトミージョン手術の権威であるキース・マイスター医師は次のように語っている。

 「スイーパーは収縮した筋肉を急速に引っ張る力が働き、筋が痛む」と。

 投手としてはリハビリを努め、打者に専念する大谷翔平の2024年シーズンが待ち遠しい。(文中一部敬称略)

連載「勝負の分かれ目」の記事はこちら

   
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