NHKスペシャル「メジャーリーガー大谷翔平~2023年の伝説と代償 そして新たな章へ〜」(12月24日)は、天才「大谷翔平」の実像に迫る迫真のインタビューである。人工知能(AI)を応用して投打の技術を磨いて最高の水準に引き上げる「デザイン」という概念がメジャーで取り入れられ、その活用の先端に大谷がいることには驚かせる。
「投打の二刀流」によってメジャーを驚かせた大谷は、日本球界にも衝撃の波紋は広がっていくだろう。アジア人初の本塁打王やMVPの投票において満票で2度目の受賞を受けたことなど、記録を超えた大谷像を浮かび上がらせたインタビューの傑作である。
「天才」イチローとの違い
ここではまず、野球選手として、そして監督として実績を積みかつ、人材・組織の育成論においてもいまなお読み継がれている、野村克也氏の著作のなかから『野村のイチロー論』(幻冬舎、2018年)を引いていきたい。イチローを論じながら「天才」とはなにかを鮮やかに描き出しているからである。
「イチローは天才でありながら練習の虫なのである」
ふつうの選手のフリーバッティングは籠ひとつぶん(約300個)をピッチングマシーンに入れて打ち、約1時間で終了する。イチローは打ったボールを集めて繰り返し打った。朝から晩まで続くことがまれではなかったという。
その一方で、野村氏は「イチローを認めなかったもっとも大きな理由は、ひとことでいえば、こういうことだ」「『イチローを見習え』と、ほかの選手に言うことができないから―」
「(イチローは)天才でありながら、凡人よりもはるかに努力する。しかし、そのプレーが、努力が自分の記録を伸ばすためであるためにだけに向けられていた―わたしにはそう見えたのだ」
「チームより自分優先」と。「『中心選手が個人優先主義だからチームが弱い』という言い方もできないわけではない。中心選手が自己中心的だと、おのずとほかの選手もチームの勝利よりも自分の記録を優先することになる」