2024年11月22日(金)

田部康喜のTV読本

2023年12月31日

 マスコミに対する対応がそっけない点についても、野村氏はイチローに批判的だ。

 「記者たちの向こうにファンがいるのである。ファンはイチローと直接話すことはできない。報道は、ファンがイチローの言動を知ることができる唯一といってもいい機会なのである。記者たちは、イチローとファンをつなぐ接点なのだ」

 天才であるために自己鍛錬し、チームの勝利を優先することは至難の業である。「野村克也理論」を基準にして、この番組を観るとき、大谷翔平こそ野村理論の理想形ではないだろうか。2023年の大谷翔平の活躍について、野村克也さんの言葉を聴きたかったのに亡くなられてしまったことは残念でならない。

チームの中心として勝利へ向かう大谷

 番組の大谷翔平に対するロングインタビューは、23年のシーズン前からの投打の最高点を求める科学技術を活用した「デザイン」の練習風景や、投球できるようにする断裂した筋を他の筋の移植によって再生する、トミージョン手術の専門医のインタビューを組み込みながら、23年の「伝説」と「代償」を描き出している。

 ドジャーズへの移籍会見には、メディア関係者約300人が集まり、大谷とのやり取りを観ていた人は日米を中心にして約7000万人と推定されている。

 大谷翔平がドジャーズに入団した理由を聞かれると、即答だった。

 「(ワールドシリーズに参加するチームを決める)プレーオフに進出することです」

 どの球団に入団するのか、メディアが事前に条件として想定していた前所属のエンゼルスの本拠地とドジャーズのそれが近いことがあげられていた。しかし、大谷はこういう。

 「(どこに本拠地があることは)あまり問題なかった。いろいろな球団の話を聴いても、どの球団のためにも勝ちたいと思った」と。

 巨額の契約金の97%を後払い(利子なし)にした理由もさらりといってのける。

 「他の選手が入団できるようにするためです。多様性が図られるでしょう」と。

 ワールドシリーズ優勝7回を成し遂げているドジャーズ自体が、多様性にならってきた球団である。黒人初のメジャーリーガーのジャッキー・ロビンソンを迎え、野茂英雄もこの球団から米球界からの経歴を始めている。

 エンゼルスの選手がホームランを打ったときに日本の兜を被るパフォーマンスや、大谷がメディアの質問にときにユーモアを交えて積極的に応じる姿勢は、野村氏が言う「中心選手」であり、かつチームの勝利を優先していることを物語っている。

プレーを「デザイン」とは

 さて、AIなども応用した「デザイン」という概念である。メジャーリーグを席巻している。

 大谷が「デザイン」に取り組んでいる施設はマイクロソフト出身のエンジニアによって設立された「ドライブライン」という施設である。23年シーズン前の映像とその解説は驚異的なものだ。


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