2024年5月19日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2024年1月20日

「茶の湯」の世界

救い
ベッピ・キュッパーニ(著) 中嶋浩郎(訳) みすず書房 5500円(税込)

 著者はイタリア人で、『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)で知られるヤマザキマリ氏の夫だ。主人公は、イエズス会宣教師ヴァリニャーノと、東方貿易商人のアルヴィーゼ。旧知の二人は、1579年(天正7年)、織田信長が台頭した日本の地に降り立つ。ヴァリニャーノは、それまでの報告と違い、日本での布教がいかに困難であるかを知って愕然とする。一方で、アルヴィーゼは、日本の社会に溶け込んでいく。そこで出会うのが、「茶の湯」だ。小説中の彼らと同様に、この世界を知らなければ、新しい発見の連続だ。600ページにおよぶ大著だが、それを感じさせない歴史小説。

エンタメ小説

ハーレム・シャッフル
コルソン ・ホワイトヘッド(著) 藤井光(訳) 早川書房 2970円(税込)

 奴隷農場から自由を求めて逃走する少女を描いた『地下鉄道』(早川書房)、少年院で虐待されるアフリカ系米国人少年を描いた『ニッケル・ボーイズ』(同)で2度のピュリツァー賞を受賞した著者。本作は「エンタメ小説」と銘打たれている。舞台は1950〜60年代のニューヨーク・ハーレム。家具店を営むレイ・カーニー。真っ当に商売をしたいが、いとこのフレディをはじめ、そうはさせてくれない連中に巻き込まれていく。当時のアフリカ系米国人社会の一端を知れる。

さまざまな愛の形

肌馬の系譜
山田詠美 幻冬舎 1760円(税込)

 不注意で子どもを殺めてしまい、その遺体を愛そうとする母親。愛する人を幸せにするため、手にかけた女性。そして種馬と肌馬以外の存在へと目線を広げる三世代の会話。本書は、さまざまな愛の形を描く短編集だ。著者が「文学には差別される側、する側、両方を描く義務がある」と語るように、中立的な表現を用いるポリティカル・コレクトネスは、文学と両立することが難しい。本書で描かれた愛の形は、良い・悪いで区切ることができない、多層的なものである。

   
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Wedge 2024年2月号より
霞が関の危機は日本の危機 官僚制再生に必要なこと
霞が関の危機は日本の危機 官僚制再生に必要なこと

かつては「エリート」の象徴だった霞が関の官僚はいまや「ブラック」の象徴になってしまった。官僚たちが疲弊し、本来の能力を発揮できなければ、日本の行政機能は低下し、内政・外交にも大きな影響が出る。霞が関の危機は官僚だけが変われば克服できるものではない。政治家も国民も当事者だ。激動の時代、官僚制再生に必要な処方箋を示そう。


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