2024年12月13日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2024年1月20日

今月は、旬の小説をセレクトしました。さまざまな疑似体験、シミュレーションができるのが小説の醍醐味です。
(daikokuebisu/gettyimages)

なぜ列に並ぶのか?


中村文則 講談社 1540円(税込)

中村文則 講談社 1540円(税込)

 なぜ自分は、この列に並んでいるのか? その先に何があるかも分からない。そして最後尾も見えない。でも、列から抜けるわけにはいかない。そのため、前後に並ぶ人との間には緊張感が漂う。この展開で思い出されたのは、安部公房の『壁』だった。読者としては、物語から何か意味を読み取ろうとするが、それが正しいのかどうか分からない。しかし、そこに解はなく、自らが置かれた状況によって変わるのかもしれない。何度でも読み返すべき小説だと思う。

沸騰する地球

未来省
キム・スタンリー・ロビンスン(著) 瀬尾具実子(訳) パーソナルメディア 3300円(税込)

未来省キム・スタンリー・ロビンスン(著) 瀬尾具実子(訳) パーソナルメディア 3300円(税込)

 昨年、国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰化の時代が到来した」と、述べたことが話題になった。まさにその行き着く先を描いたのが本書だ。2025年に未曽有の熱波に襲われ、その結果、2000万人もの人が犠牲になった。このような問題に対処するための「未来省」が設けられた直後のことだ。SFだけれども、これから実際に、われわれが直面するかもしれない問題。その試行錯誤は、まさに未来予測そのものだ。温暖化問題を自分事として考えるのに役立つ一冊だ。


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