ブレストよりも「雑談」を
『東大教授が語り合う10の未来予測』瀧口友里奈 (編著)大和書房 1980円(税込)
YouTube番組『東大×知の巨人たちの雑談』から生まれた本書。経済キャスターで番組の司会・進行を務めた瀧口友里奈氏が未配信部分を含めてまとめた完全版である。小誌も末席に加わらせていただき、「天才たちの雑談」として全6回の連載を行ったが、知の巨人たちの雑談は実に楽しく、刺激的であった。「AI」「教育」「宇宙」など、全10個のカテゴリーから構成されるが、どこから読み進めてもいい。ブレストもいいが、雑談にはさまざまなアイデアの芽が詰まっている。
100年に一度の変革
『トヨタのEV戦争』中西孝樹、講談社ビーシー、1980円(税込)
トヨタは2023年11月、24年3月期決算の純利益が、3兆9500億円となる見通しを発表した。足元では好調を維持しているが、自動車業界は「100年に一度の変革期」にあるとされる。電気自動車(EV)化の流れの中で、ソフトウェア定義車両(Software Defined Vehicle=SDV)への対応が求められている。トヨタの勝敗は日本経済に直結すると言っても過言ではない。業界No.1アナリストとされる著者がトヨタに求められる変革と自動車産業の未来を解説する。
人の立場に身を置く
『エクス・リブリス』ミチコ・カクタニ (著) 橘 明美(訳) 早川書房 3905円(税込)
30年にわたりニューヨーク・タイムズで書評担当を務め、ピュリツァー賞(批評部門)を受賞した文芸評論家で、日系2世でもある著者。タイトルの「EX LIBRIS」とはラテン語で「蔵書票」という意味。解説によれば、カクタニ氏は、「指摘が鋭い上に言葉に遠慮がないこと」から「辛口批評家」として知られているというが、今回はその“辛口”は陰を潜める。というのも、本書は「一人の本好きとして書いた」からだ。「今は誰もが多くのことに気をとられて注意散漫に陥っているような時代」だからこそ「深い経験が得られる読書は重要」だとカクタニ氏はいう。本の宝庫ともいえる一冊だ。