「生きる力」に乏しく、行き詰まる子どもたちが増えている。要因は一つではないが、毎年のように過去最多を更新し、増加し続ける不登校児童生徒数はそれを象徴している。
子どもを〝卒業〟したはずの若者にも行き詰まる人が増えている。厚生労働省の調査によると、入社3年以内の離職者は約3割にも上る。その中にはより良い待遇・条件を求めて離職する人もいるが、私には、人とのコミュニケーション能力や我慢・忍耐力など、実業の世界に必要な「生きる力」が徐々に細ってきていることも影響しているように思えてならない。
詳細は後述するが、子どもであれ若者であれ、行き詰まってしまう人の特徴として、子どもの発達段階に必要な能力を育むべき時期に、大人たちに管理されすぎた生活を過ごしているため、「考える時間」や「すき間時間」が失われ、「生きる力」を養うために欠かせないリアルな「実体験」が乏しいことが挙げられる。
子どもたちは、われわれ大人たちよりもこれから先、ずっと長く、未来を生き抜いていかなければならない。未来の社会がどうなるのかは、誰にも分からないが、自らが問いを立て、解決策を見つけ出す力が必須であることは疑いようのない事実であり、それを養うためには、さまざまな困難にも打ち勝つだけの力を持つことが必要である。その意味で、子どもたちに「生きる力」を身につけさせることは、われわれ大人たちの責務である。
現代の子どもたちを取り巻く足元の現実をしっかりと見つめ直した上で、これからの時代、子どもたちの「生きる力」を育むためにはどのようのことが必要なのか、学者でも、ジャーナリストでもない、生粋の「教育実践者」の立場として、私見を述べたい。
寄宿塾ではなく、寄宿生活塾
「はじめ塾」とは何か
「はじめ塾」は、神奈川県小田原市の小田原駅から徒歩5分ほどにある小さな寄宿生活塾である。約15人の十代の青少年たちが親元を離れ、一つ屋根の下で「生活」している。
「人は台所で育つ」
はじめ塾では、この言葉を掲げ、子どもたち全員で毎日三食、台所で食事作りを行っている。「生活」には、あらゆる領域・分野の実体験が含まれている。はじめ塾が単なる寄宿塾ではなく、寄宿生活塾と名乗っているのは、このためである。子どもたちは、「丁寧で、規則正しい日常生活」を送ることで、「生きる力」を養っている。
会員は、毎年入れ替わりがあったとしても、約300人で、全員が寄宿できないため、「通い」の子どもたちもいる。私は、はじめ塾の二代目塾長として、さまざまな境遇の子どもたちを受け入れてきた。