集合場所は東京駅八重洲南口のマクドナルド前、集合時間は午前10時45分─。
あるプログラムに参加する全国各地の中高生たちは、事務局から事前にこう案内されていた。だが、当日、集合時間が過ぎたというのに、事務局の大人はどこにも見当たらない。周りには大きなキャリーバッグを持った、似たような背格好の人ばかり……。
「もしかして、君も?」
彼らはおずおずと話し始め、とうとう一人が電話をかけた。
「事務局の人がいないのですが、どうかしましたか?」
これは、東京大学先端科学技術研究センターが運営する教育プログラム「LEARN」で見られた実際の一コマである。
なぜ、集合時間にいないのか。責任者を務める中邑賢龍シニアリサーチフェローは「子どもたちは不安だったら勝手に動くもの。受け身の姿勢ではなく、自分が主体となって動くことの重要性を伝えるため、あえて集合時間には行かず、電話があるまで待つことにした」と語る。
LEARNでは、子どもたちが学びの自由さや面白さに気づくことを目的に、多様な活動を提供している。
例えば、「子どもが夜に寝ない」という親の意見を取り入れ、山口県美祢市の秋吉台で、朝まで昆虫観察して〝徹底的に〟夜更かししたり、スマートフォンを使わずに子どもたちの力だけで北海道まで行き、氷点下16度の中でまき割り作業などを体験するプログラムもある。期間も1日単位から1週間にわたるものまでさまざまであり、講演会などを含めると、小学生から大学生まで、年間2000〜3000人の子どもたちが参加している。
〝不公平〟や〝不自由さ〟
を体感させる
LEARNには、子どもたちを特別扱いせず、〝不公平〟〝不自由〟だと感じさせる仕掛けもある。
例えば、かつお漁で有名な高知県の中土佐町久礼で行ったプログラムでは、かつお漁の乗船体験が設定されていた。参加する子どもたちは、てっきり「かつお漁船に乗れる!」と思いきや、現地に行ってみると、全員の座る席がない。ショックを受けるが、乗船できない子どもたちには市場での「せり見学」やかつおを捌く「料理体験」が用意されていた。しかも、実際のプログラムでは、漁船に乗った子どもは船酔いをして、かつおを食べることができず、陸上でフィールドワークをした子どもは美味しく食べることができたという。子どもたちの恨み節が聞こえてきそうなエピソードだが、中邑氏はこうした〝不公平〟な場面を設定する理由をこう話す。
「今の子どもたちは仲間から排除されることを恐れている。だが、いつも仲間で行動するわけではない。また、漁業という営みは、海での仕事を見るだけでは分からない。漁師はもちろん、市場で働く人や料理する人がいて、はじめて成り立つもの。子どもたちには、選り好みするのではなく、さまざまな仕事があってこの町の暮らしや社会が成り立っていることを理解してほしかった」