Wedge REPORT

2021年5月14日

»著者プロフィール
著者
閉じる

向山行雄 (むこうやま・ゆきお)

敬愛大学教育学部教授・教育学部長

全国連合小学校長会顧問。1950年東京生まれ。73年横浜国立大学卒業。東京都公立小学校教員、東京都教育委員会指導主事、品川区教育委員会指導課長、中央区立泰明小学校長、帝京大学教職大学院教授などを経て現職。主な著書に『平成の学校づくり─日本の学校のチカラ─』(第一公報社)など。

国内の学校図書館の蔵書整備、朝読書推進など読書活動に関わる条件整備が進む。(写真は国際教養大の中嶋記念図書館)

 全国の学校に、コロナ禍の2度目の春が来た。新学期が始まり約1か月。重いランドセル姿の小学校1年生も、学校への道に慣れてきた頃だ。

 日本の学校は、およそ10年に1度、学習内容や方法を改訂する。小学校は昨年度から、中学校では今年度から実施する。

 今回の改訂で「生きる力」の育成を踏まえて、育てる「資質・能力」を3つの柱に整理した。全国の学校では、数年前から改訂作業の円滑な実施に向けて準備をしてきた。コロナ禍での様々な対策をしつつ、新しい教科書や通知表づくりにも取り組んできた。

 例えば、国語では、「語彙指導の改善・充実」に取り組む。中央教育審議会答申で、「小学校低学年の学力差の大きな背景に語彙の量と質の違いがある」との指摘に基づく。各学校は、「語句の量を増やすこと」「語句のまとまりや関係、構成や変化について理解すること」という内容で実践する。

 かつては、抽象的な内容の多くなる小学校4年生頃から学力差が生じてきた。算数で、少数や分数の計算、社会科で全国各地の様子を学習する学年である。いわゆる「10歳の壁」も話題になったことがある。

 しかし、近年では、小学校低学年での学力差、それも語彙の量と質の差が課題になっている。この背景には、子どもを取り巻く社会の大きな変化がある。幼い子どもの学力差は、大人の責任である。保護者も教育関係者も、この難題に立ち向かわなければいけない。

 昨今、文庫本や週刊誌を買い求めて列車に乗る人が減ったのであろうか、東京駅の駅ナカ書店の平台と棚が減少した。電車の中でもスマホばかり、書物を開く人の姿は稀である。

 小学館が『小学8年生』という各学年向きの月刊誌を2017年に発刊した。デジタル文字で示された「8」は1にも2にも、5にも6にも見える。つまり、1年から6年までの全学年対応型の月刊誌だ。 

 小学館の『小学5年生』『小学6年生』は1922年に発行されて以来、毎月の発売日には、書店に平積みにされ、子どもたちは我先にと買い求めた。しかし「月刊誌離れ」や他のメディアとの競合等の影響などもあるのではないかと推察する。

OECD調査での読解力成績
どう「解釈」すべきか

 2019年12月、国立教育政策研究所は、「経済協力開発機構(OECD)生徒の学習到達度調査(PISA)』の結果を公表した。PISAは、15歳児を対象に、3年おきに読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーについて実施される。日本は加盟37カ国中で数学的リテラシーは1位、科学的リテラシーは2位と世界トップレベルの成績を安定的に維持している。

 一方、今回の読解力は11位。読解力の成績の推移は、00年から18年までに3年おきに、8位(28、参加国数。以下同)→12位(30)→12位(30)→5位(34)→1位(34)→6位(35)→11位(37)である。調査当初の成績は芳しくなかったものの、その後順調に順位を上げ、12年には第1位となっている。だが、コンピューター使用調査になった15年に順位を下げ、今回さらに低下した。特に、新たに付加された「質と信憑性を評価する」と「矛盾を見付けて対処する」問題の正答率が低かった。

 国立教育政策研究所では、読書活動と読解力の関係について、次のようにまとめている。

○日本を含むOECD全体の傾向として、本を読む頻度は09年に比べて減少傾向
○読書を肯定的に捉える生徒や本を読む頻度の高い生徒の得点が高い
○日本の子どもたちは、読書を肯定的に捉えている

 スマホが中学生や高校生世代に普及して久しい。スマホばかり見ているから「活字離れ」をした。だから、国際調査でも日本の子どもの読解力が低下したのだと決めつけがちだ。本当に、日本の子どもたちは、近年になって本を読まなくなったのか?

 全国学校図書館協議会と毎日新聞社が実施している「学校読書調査」によれば、1カ月に1冊も本を読まない「不読率」は、00年の小学生(4~6年)は16.4%、中学生は43.0%、高校生は58.8%。それが、17年には小学生5.6%、中学生15.0%、高校生50.4%となっている。小学生で約11%、中学生で約28%、高校生でも約8%改善された。

 つまり、ケータイやスマホの所有率が高くなってきても、不読率は着実に低下しているのである。本の内容をしっかりと理解できているのかとの反論もあるかもしれないが、「最近の子どもはスマホのために本を読まなくなった」という言説は妥当ではない。

 ちなみに、1人あたりの1カ月の読書冊数は、00年の小学生6.1冊、中学生2.1冊、高校生1.3冊。17年は小学生11.1冊、中学生4.5冊、高校生1.5冊。小学生では着実に読書冊数が伸びているが、中学生、高校生に上がるほど伸びが鈍化する。

関連記事

新着記事

»もっと見る