Wedge REPORT

2021年3月26日

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秋元沙織 (あきもと・さおり)

編集ライター

編集ライター。2018年より企業、人物、商品の取材を中心に、主にビジネス領域での企画・取材を担当する。独立以前にはアパレル企業の営業兼販売員、出版社の雑誌編集、IT企業の広報と、老舗&ベンチャー企業での勤務経験を持つ。私生活では一児の母。

[執筆記事]

 「今から友達とグループになって話し合おう。タブレットにヘッドセットをつないで」

タブレット型端末に映し出されたデジタル教科書
(THE YOMIURI SHIMBUN/AFLO)

 小学5年生の国語の時間。先生の指示に従い、慣れた手つきでタブレット端末内のチャットツール(Microsoft Teams)に各自接続する。Teams上の会議機能によってランダムに3~4人のグループに割り振られたところで、ディスカッションが始まる。

 「つまりこういうことでいいよね」

 マイクを通じて児童同士で会話しながら、デジタル教科書と教材を操作して要点をまとめ、みるみるうちに発表用の資料が出来上がっていく─。

 これは、東京学芸大学附属小金井小学校の授業風景だ(下写真参照)。

①タブレットでチャットツール(Microsoft Teams)に接続
②2 グループで話し合いながら、資料を作成
③ 全体発表・意見の共有
(出所)東京学芸大学附属小金井小学校の授業風景を基にウェッジ作成
「学習者用デジタル教科書+教材・5年国語・光村図書出版」

 先生が黒板に書いた内容を児童が黙々とノートに書き写す、100年間変わらなかった日本の学校教室の風景に今、新たな変化が起き始めている。

 「児童生徒一人一台端末」と「高速大容量の通信ネットワーク環境」の整備を目指した「GIGAスクール構想」は2019年にスタートした。当初は23年までに整備を完了する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大を受けた一斉休校により遠隔学習の必要性が注目されたことで一気に加速した。対象となる国公私立の小・中・特別支援学校の残り全ての整備予算に相当する2318億円が20年度補正予算で承認されたことも後押しした。文部科学省の発表によれば、全国の1805自治体のうち、20年8月末時点で既にタブレット端末を導入している自治体はわずか36(2%)にもかかわらず、21年3月までに残りの約98%もの自治体が新たに端末を納品する計画だという。

 タブレット端末の配布が急速に進む一方で、その歪みも見え隠れする。

 政府の検討会議にも名を連ねる、ある教育関係者は「3月末までの端末配布は年度内に予算を消化したい政府側の都合だ。だが、卒業式やクラス替えなどが重なる年度替わりは学校現場も慌ただしく、せっかく届いたタブレットも、教員が使い方を学ぶ時間がとれる夏休みまで箱にしまったまま、という学校も多いだろう」と漏らす。

扱いに戸惑う教育現場と
整備に追われる文科省

 続々と端末配布が進む2月、北海道から九州まで、全国の公立小・中学校の現役教員複数名に匿名取材を実施したところ、拙速な端末配布に戸惑う現場の姿が浮かび上がってきた。

 「新学期が始まった昨年4月の段階では『(タブレット配布は)3年後だね』と話していたのに、急にふって湧いたような話。ICT担当者や授業準備含め、学内の受け入れ体制が整うのは4月以降になりそうだ」(山口県公立小)

 「端末を活用した授業のイメージができている教員は一人もいない。せめて文科省や教育委員会が動画配信でもしてくれれば……」(埼玉県公立中)

 地域や学校間の格差、教育委員会との対立、世代間での認識の違いなど、タブレット配布を巡り、学校現場ではさまざまな問題に直面しているようだ(下図参照)。

(出所)匿名取材を基に、ウェッジ作成 写真を拡大

 背景には、端末配布後の活用法について、各自治体や学校に放任されている現状がある。

 現行の「GIGAスクール構想」では、ICT環境整備後の教師の役割、指導体制、ICT活用指導力の向上等については、「今後の主な検討課題」とされたままだ。

 巻き返しを図るべく、文科省の今井裕一初等中等教育局情報教育・外国語教育課長は「本来、4年かけて行う施策を3年圧縮したため、活用に向けた準備がまだまだ追い付いていないと感じている。4月以降、教員向けの研修動画の配信や、ICT支援員の人材確保など、教育現場への活用支援を実施していきたい」と述べる。

 そもそも、学校教育の場にタブレット端末を導入することに、どのような意義があるのだろうか。

 国際大学GLOCOMの豊福晋平准教授は「急速に変化する情報社会では、求められる知識が増えるにつれ、スマホやPCなど、ICT機器を用いた情報活用能力が個人の資質や評価と強く結びついてきた。幼少期からICTに触れる機会、時間、用途を増やすことが、社会に出た後の子どもたちの将来性を伸ばすことにつながる」と語る。

 タブレットは「道具」であるからこそ、使い方次第で、教育の可能性を広げることにつながる。冒頭の小金井小学校の鈴木秀樹教諭(55)はもともとデジタルに強く、コロナ禍における飛沫防止の一環により、教室で輪になって話すことが制限されたため、タブレットを活用し、児童同士向かい合わずに話し合う方法を思いついたという。

 「以前は近くの席の児童同士、決まった組み合わせで話し合っていたが、Teams上で毎回ランダムにグループが組まれることで、教室の両端の児童同士でも自席にいながら話すことができるようになった。結果、より多様な意見交換の場が生まれた」(鈴木教諭)

 学校の外と協力しながら学びの体制を整えていく自治体も出てきた。熊本市では熊本大学、熊本県立大学、NTTドコモと「教育情報化の推進に関する連携協定」を18年に締結した。熊本大学はICT教育カリキュラムの開発と教員研修の監修、熊本県立大学はICT活用事例共有アプリの開発など、NTTドコモは端末等のインフラ提供を担い、市内の全公立小・中学校を支援するなど、産官学連携でそれぞれの強みを生かす。また、19人のICT支援員を備え、各学校に月3回常駐する他、障害発生時の対応、先生ごとの授業に合わせた使用方法の提案、現場の要望に沿った教材開発など、各学校のタブレット活用をサポートする。

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