地域全体で活用を支援
熊本市の先進事例
熊本市を支援する熊本大学教職大学院の前田康裕准教授は「ICT活用の推進をそれぞれの学校単位に任せるのは、荷が重い。地域や自治体単位で知識や経験を共有しながら、財産として積み上げていくべきだ」と指摘する。
熊本市立城東小学校の6年生担任・入江亮介教諭(46)は「タブレット端末は時間と空間を自由に扱えるツール。『動画や音声で記録できる』との意識が生まれたことで、子どもたちは自ら考え、その場に応じた使い方をするようになった」と語る。たとえば、体育の時間では、児童が自発的にハードル競技中の動画を撮影し合い、スロー再生しながらお互いのフォームをチェックする。また、家庭科の調理実習では、レシピをメモしながら、調理中の様子を動画で撮影して保存する。コロナ禍の休校中には、家庭での調理を家族に撮影してもらい、タブレットで動画を提出するなど、子どもたちの学びは教室の中にとどまらない。
熊本市立尾ノ上小学校では、教員のタブレット活用力向上に力を入れる。自由参加でアプリの操作や活用方法を学び合う「放課後タブレットカフェ」を開設し、ICT機器を用いた授業をオンライン上で相互に公開し合うなど、教員同士の教え合いの場を積極的に設ける。中心となる奥園洋子教諭(49)は、自身の携帯電話も2年前にようやくスマホに変えたばかりだ。
「奥園教諭はデジタルが得意とは言えないが、授業を通して児童とコミュニケーションをとるのが抜群に上手だった」と語るのは、彼女をタブレット推進の担当者に抜擢した村上正祐校長。奥園教諭は以前から、児童同士の意見共有を図るため、教室内を移動し、それぞれのノートを見せ合う時間をとっていた。それが、タブレットの画面共有を用いることで、自席にいながら児童のコメントをクラス全体で共有することができるようになったという。
「私が一方的に教えるのではなく、子どもたち同士が『なんでそうなるの』『こうすればいいんだよ』と自然に学び合う授業を意識している。児童がお互いの考えを知るのに、タブレットは最適なツールだ」(奥園教諭)
だが、タブレットを配布したからといって熊本市のような事例が全国に展開できるとは限らない。
教師の指導技術を高め、共有し合うことを目的とする日本最大の教育研究団体TOSSの代表でもある、玉川大学教職大学院の谷和樹教授は「現場では、リアルの授業が上手な教師ほどICT機器をうまく使いこなすという傾向がみられる」と指摘する。つまり、教員の教える技量の向上が「GIGAスクール構想」の成否の鍵を握るのだ。
わが国がようやく教育のデジタル化へ向け、歩み始めた今だからこそ、その踏み出す方向を違えてはいけない。
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