新型コロナウイルス感染症が社会全体に大きな影響を与えていた最中の2020年9月、法務省に「危機管理会社法制会議」が設置された。コロナ禍が長引くなかで、休業を余儀なくされる会社がいくつも出てきた。厚生労働省によると20年末時点で、新型コロナに関連した解雇や雇い止めが8万人近くにおよんでいるという。今年は、その数はさらに増えるだろう。
危機管理会社法制会議には、会社法が専門の上村達男早稲田大学名誉教授、松本正義関西経済連合会会長、日覺昭廣東レ社長、岡素之住友商事特別顧問などを迎えて議論しており、この会議に対する日本全国の勤労者の期待の大きさをひしひしと感じる。会社は売り上げが立たなくても給料を払えるようにするには平時からの備えが必要だ。そこで法定資本、法定準備金の制度を改めて導入し、利益剰余金も一定割合を留保するように制度を改め、いざという時に社員と家族を守ることができる強靭な法制度が必要となる。ポストコロナ後の世界の会社法体系の規範となるものを作るのだ。
ここでは経営難に陥った会社に将来、政府が救済資金を支給した場合には、この資金を配当原資にしないようにすることも求めている。
好景気の時に積み立てた利益剰余金を特別配当や自社株買いに使うのではなく、いざという時に銀行借り入れをしなくても、政府から救済資金をもらわずとも、自社資金で賃金を払い続け社員とその家族を守ることができるように会社法を強靭化することを多くの国民が望んでいる。
コロナ禍で8万人以上の失業者が出るなかで、法務大臣はこの重要性を理解し、国民を守るための会社法改正を急ぐべきだ。
コーポレートガバナンス
改革の帰結
97年にビジネス・ラウンド・テーブルが「株主第一主義」を打ち出して以降、日本でも米国流の経営手法が取り入れられてきた。それに追い打ちをかけたのが14年のコーポレートガバナンス改革であり、「総還元性向(当期純利益に対する配当と自社株買いの総額)」の比率が、100%超す企業が続出した。
伊藤邦雄・一橋大学教授(当時)を座長にした経済産業省のプロジェクトで、「最低限8%を上回る自己資本利益率(ROE)を達成することに各企業はコミットすべきである」という、多くの日本企業にとってはマイナス効果が大きくなるような提言がなされた。
そもそもROE8%に根拠はない。コロナ緊急時やデフレで金利がゼロの時、短期間しか保持しないアクティビスト株主が8%のプレミアムを要求することに正当性があるとは国民のほとんどは思わない。
アクティビストなど投機的株主が特別配当や自社株買いを要求して内部留保を切り崩すことは、会社が社員を守るための体力を弱めるだけでなく長期にわたって会社を支える株主の利益を奪い取ることにもなる。ましてや当期利益の100%以上を株主還元するために、借り入れをしたり、社債の発行までして配当や自社株買いをしたりする企業行動は、会社は社会の公器として世界が認知する時代には反社会的であるとみなされるであろう。
財務省法人企業統計調査によると2010年から19年まで、全産業の純利益は22.1兆円から50.6兆円と229%、配当は12.6兆円から28.4兆円と225%伸びた。一方、従業員報酬は195兆円から202兆円と4%の伸びしかない。