2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2021年3月18日

 企業価値とは社中各成員に対して還元する付加価値の総和であって時価総額ではない。

 さらに社中分配を毎年継続するために中長期の観点で経営を行うことが必要だ。中長期で会社が繁栄発展するためには、企業家精神をいつの時代にも醸成し果敢に新しいことに挑戦する社風がなくてはならない。

 私は03年、読売新聞の論説に、「米国の資本主義は、社会に有用な企業を全部崩壊に導いていく可能性すらある。その理由は、企業統治の要をなす『企業は株主のもの』という間違った考え方にある」と書いた。予想通り米国の株主資本主義のルールの下、時がたつとともに当時の名門企業であったGE、ヒューレットパッカード、ゼロックス、デュポンなど有力企業が短期的利益を求めるアクティビストたちの餌食となった。

「会社は株主のもの」と信じる集団に属する人々は、同じ利益を生むならば、短い期間の方が高い内部収益率(IRR)を実現できるので短期主義が勃興した。短期間でカネがカネを生むことを追求すると、投資は投機へと変化する。

 アクティビストやヘッジファンドがこうして闊歩することになるが、投機は必ずバブルを作り、バブルは崩壊を避けられない。崩壊の過程で起きるのがゼロサムゲームであり、これが繰り返されると、中間層は没落して貧困層となり、彼らの富は富裕層に吸い取られることで格差が拡大する。株主資本主義が超格差社会を作ったと言われても仕方ないだろう。

 問題の深刻さを受けて、19年3月には、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)のビジネススクールで公益資本主義の集中講義を1週間行った。その後、ハーバード経営大学院のジョージ・セラフェイム教授が公益資本主義を引用し、これを日本経済新聞が日本語訳にして経済教室で掲載した(19年12月16日付『脱・株主至上主義の行方(上)企業も環境・格差に配慮 必須』)。

(出典)アライアンスフォーラム財団 写真を拡大

 そして19年8月には米国主要企業181社のCEOからなるビジネス・ラウンド・テーブル(ダイモンJPモルガン会長がトップ)で、それまで株主こそが最優先と株主資本主義を掲げていた経営者が、最優先は顧客で次が従業員、最後の5番目が株主という順序だと公表した。

 さらに20年1月にはダボス会議では前頁に記した公益資本主義社中分配図(右表参照)を示し、あるべき利益分配の姿を示した。私がダボスのメタカウンシルメンバーとして毎年話していたことがようやく起きたのだ。

米中両国の課題を解決する
「公益資本主義」

 中国共産党は鄧小平のもと、米国型資本主義を社会主義市場経済システムの名称で取り入れ米国の支援を得て国民の収入を増やすことに成功した。

 しかし15年頃から手本としてきた英米での中産階級層が減り始めたことや、格差拡大が社会に大きな不安をもたらしていることなどから株主資本主義はもはや参考にならなくなっており、将来も引き続き国民を豊かにすることができなくなりつつある。


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