そこで必要なのが「公益資本主義」だと言えよう。変化の表れとして、私が07年に書いた『21世紀の国富論』(平凡社)が中国政府機関によって翻訳され、中央党校をはじめ、将来の共産党幹部の養成のために読まれ、『「公益」資本主義』(文春新書)は、李克強首相の大学時代の盟友によって翻訳されることが決まり、両書物とも21年春には中国の図書館や書店に並ぶことになっている。
米国が推進してきた株主資本主義も、中国共産党が主導していきた共産主義も今世紀には変化せざるを得ない時期に来ている。両国とも絶対的多数の国民を豊かにすることができなくなっているからだ。
私は、「公益資本主義」を実現させることで、健康でしっかりと教育を受けた〝分厚い中間層〟を増やしていくことを切に願っている。中間層の厚みが回復すれば、人々の生活にゆとりが戻り、目先のことを追いかけるポピュリスト政治家ではなく長期を見据えた指導者が選ばれる時代になろう。
そうすれば、コロナ禍のような事態においても、一部の人間だけが巨万の富を得たり、「株主資本主義」が跋扈したりするような社会に対して、はっきりと拒否できる人を増やしていくことも可能になる。
日本はバブル崩壊後、米国経済を後追いするような形で、「実体経済」から「金融経済」の国へと移行した。結果として、会社の利益が従業員やその家族ではなく、株主により多くもたらされるようになり、〝分厚い中間層〟が縮小していった。これを復活させるのだ。
それこそが、力強い経済成長に向けた鍵になる。そうすれば、株主資本主義の米国も、共産主義の中国も「公益資本主義」に自然と移行せざるを得なくなるだろう。
もう一つ重要なことは、日本はいつまでも米国にすべてを委ねてはならないことだ。これは米国にとっても重要である。しばらくの間、米国は強大な軍事力を維持するだろうが、中国のみならず欧州連合(EU)とも競合関係に入った今、米国にとって、日本との同盟は必要不可欠なのだ。
われわれはもう一度原点に立ち返り、社会経済システムのあり方を再考する時を迎えている。そのためにも、今こそ、日本から「公益資本主義」を実践・発信し、21世紀型の新しい資本主義として全世界に広めていくとの意志を示す絶好の時を迎えている。それが実現すれば、日本は世界を変えた国として、語り継がれることだろう。日本人にはそれができると、私は信じている。
21世紀は、日本が率先して公益資本主義を実践し、国民一人一人の勤労所得を増やし、ゆとりをもって生活を楽しむことができる社会を作るとともに、天寿を全うするまですべての国民が健康に暮らせる国を作ろうではないか。
■資本主義の転機 日本と世界は変えられる
Part 1 従業員と家族、地域を守れ 公益資本主義で会社法を再建
Part 2 従業員、役員、再投資を優先 新しい会計でヒトを動機付ける
Part 3 100年かかって、時代が〝論語と算盤〟に追いついてきた!
Part 4 「資本主義の危機」を見抜いた宇沢弘文の慧眼
Part 5 現場力を取り戻し日本型銀行モデルを世界に示せ
Part 6/1 三谷産業 儲かるビジネスではなく良いビジネスは何かを追求する
Part 6/2 ダイニチ工業 離職率1.1% 安定雇用で地域経済を支える
Part 6/3 井上百貨店 目指すは地元企業との〝共存共栄〟「商品開発」に込める想い
Part 6/4 山口フィナンシャルグループ これぞ地銀の〝真骨頂〟地域課題を掘り起こす
Part 7 日本企業復活への処方箋 今こそ「日本型経営」の根幹を問え
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