2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2021年2月15日

 いま、全国の百貨店が苦境に立たされている。昨年1月に山形県唯一の百貨店・大沼が倒産したことを皮切りに、新潟三越、そごう徳島店、福島県の老舗・中合など、地方百貨店の閉店が相次ぐ。全国的なモータリゼーションの進展に伴い、郊外のショッピングセンター(SC)や大型スーパーに消費が移るなか、新型コロナウイルスの感染拡大による買い控えが追い打ちをかけた形だ。多くの地方百貨店が生き残り策を模索する中で、「良いものを仕入れて売る」という百貨店業務の枠組みを超え、「良いものを自ら生み出す」ことに取り組む百貨店がある。井上百貨店(長野県松本市)は、地元企業と連携した『商品開発』に活路を見出す。

井上百貨店の井上博文常務(写真左)は、山屋御飴所の太田喜久社長(右)ら、地元の飴専門店3社と協力し、「松本飴箱」などの新商品を生み出した (WEDGE)

 井上百貨店は1885年(明治18年)創業の井上呉服店に端を発する。以来、「井上」ブランドは松本の地に根付き、100年を超える時代の変遷の中で、移りゆく流行や文化を発信し続けてきた。2000年には、松本駅前の本店に加えて、市内郊外でショッピングセンター「アイシティ21」の営業を開始し、食料品売り場には地元で人気のスーパーを誘致した。両店を合わせた年商は約80億円にのぼる。

 「長い歴史の中で培われた『安心・安全』のブランドイメージを保ちつつ、時代に合ったサービスを地元に提供していきたい。井上百貨店は単なる〝ハコ〟ではなく、地域ネットワークそのものだ」と語るのは、経営母体である井上の井上博文常務執行役員。地元企業との商品開発事業を生み出し、推し進める、まさにその中心人物だ。

 きっかけは15年に開始した「松本みつばちプロジェクト」。「城下町で採れた蜂蜜」というブランド価値に魅力を感じた井上常務は井上百貨店の屋上スペースを老舗取引先の養蜂企業に提供し、地元企業と連携した養蜂事業を開始した。16年6月に発売を開始した「城町はちみつ」は、四季折々に咲く市内の花が原料で、採取される季節によって風味が変化するという。

 「『松本みつばちプロジェクト』を通して、地元企業と一緒に商品開発をしながら、松本の味を地域に還元する喜びを知った」と語る井上氏は、その他の地元飲食企業にも協力を呼びかけ、「松本蜂蜜レアチーズ」「松本ハニーカステラ」「松本ハニーエール」などのコラボ商品を世に生み出した。


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