Wedge REPORT

2021年2月17日

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 2021年の始まりは日本列島を強烈な寒波が襲ったが、エアコンが普及した現代においても、体の芯から冷え込む雪国地方を中心にいまだ重宝されている暖房器具が「石油ファンヒーター」だ。灯油を燃焼させて得た熱を送風ファンによって送り出すことで、瞬く間に部屋全体を温める。そんな家庭用石油ファンヒーターを40年の長きに渡って販売し、メーカー販売数量シェアでは13年連続で日本一を獲得し続けている企業が、ダイニチ工業(新潟県新潟市)だ。

「石油ファンヒーター」の生産ラインで作業着に身を包む吉井久夫社長。同ラインでは最大一日6000台もの製品を生産することができる (WEDGE)

 1964年の創業以来順調に売り上げを伸ばし、2019年度には売上高約190億円を達成した同社は、業績の安定と併せ、雇用の安定も実現している。厚生労働省の雇用労働調査によれば、個人的な理由による離職率の全国平均が約10%前後であるのに対し、ダイニチ工業の過去10年間の離職率の平均はわずか1.1%。「子育てライン」と呼ばれる短時間勤務の従業員のための生産ラインを設置し、出産時には子供の人数に応じて30万円~50万円、さらには小・中・高校入学時にそれぞれ20万円の祝い金を支給するなど、仕事と育児の両立にも熱心だ。

 さらに同社は、製品の開発・設計から製造・検査までを新潟市内で完結させることで、約500人の従業員のみならず、協力会社22社を含め、1000人規模の地域雇用を創出している。

 事業を営む新潟県で育った同社の吉井久夫社長は「会社のために従業員がいるのではなく、従業員のために会社がある。彼らの生活を将来にわたって支え、地域の雇用を維持していくことが、経営者としての使命だ」と語る。

 従業員を第一に考える吉井社長の経営理念は、同社の取り組みにも反映され、着実に成果を出している。例えば、10年前から推進する生産ラインの自動化(ロボット化)だ。一見すると自動化はコストダウンのためのように思えるが、吉井社長の狙いは違っていた。

 「自動化でまず一番に達成したいのは、従業員に肉体的負担がかかる仕事や、精神的につらい単純作業の繰り返しからの解放。そういう仕事の自動化はお金をかけてでもやり切る」

 完成した石油ファンヒーターを箱に詰める工程について、以前は一日に何千台もの製品を手作業で上げ下げすることで腱鞘炎になる従業員もいたが、自動化したことで従業員からの反響が大きかったという。

完成した石油ファンヒーターの箱詰め作業。 自動化以前は1台1台手作業で行っていた (WEDGE)

 「会社の利益のためだけではなく、自分の仕事を楽にするための自動化なら、現場から湯水のようにアイデアが湧いてくる」

 石油ファンヒーターの生産ラインでは、数々の自動化の実施により10年前と比較して生産性が2倍になったという。削減した労働力については、雇用を減らすことなく、加湿器や燃料電池ユニットといった新たな製品部門への配置転換により活用の幅を広げる。

 吉井社長は「単純作業やきつい仕事は機械に任せ、従業員には知的労働や、やりがいの持てる仕事に取り組んでほしい」と、自動化の意義を語る。

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