ダイニチ工業の主力製品である家庭用石油ファンヒーターや加湿器は季節製品だが、同社は年間を通して生産ラインを稼働し続けることで生産量を平準化させる体制をとっている。需要が落ちる夏には大量の在庫を抱えることになるが、継続した生産で品質が安定するメリットに加え、部品生産を請け負う協力会社の経営安定化にも資する。そして何より季節ごとに従業員を増減させる必要がなくなる。同社では極力非正規雇用を行っておらず、生産ラインのスタッフは全て正社員だ。
「正社員としての安定雇用の下でこそ、従業員は会社の経営状況や自らの労働環境を向上させる意欲が湧く。また、会社としても、業務に余裕がある時期に、社員教育や新商品の開発などに人材や時間を割くことができる」
併せて、繁忙期の急な出荷需要に対応するため、同社では販売店から家庭用石油ファンヒーターの注文を受けてからわずか4時間で、部品製造からプレス塗装、製品組み立てまでを完了し、当日出荷を可能にする「ハイドーゾ生産方式」という独自の体制を構築している。このような生産の即時性も、全製造工程を新潟市内で完結させ、協力会社からの速やかな部品供給を受けられる生産体制の賜物だ。
次の世代を支えていくために
新製品の開発にかける思い
雇用の安定を重視する姿勢は、同社に「挑戦」の二文字を課す。
石油ファンヒーターの温度制御技術とモーター技術を生かして03年に新たに販売を開始した家庭用加湿器は13年にメーカー販売数量・金額シェアトップを獲得して以来、7年連続トップの座を維持し、今では同社の主力部門となった。19年には、発電後に余った水素を燃焼させて湯を沸かす際に石油ファンヒーターの燃焼技術が生かせるとして、家庭用燃料電池の製造・販売を開始した。今後、日本が脱炭素社会を目指す中で期待が寄せられる分野だ。
吉井社長は「1つの製品で一世代を支えられたとしても、その子供の世代を支えていくには新たな製品の開発が必要になる。従業員と協力会社社員、その家族みんなが、将来にわたって、安心して生活できるような会社にしていきたい」と語気を強める。
地元に根差した安定雇用の創出は、会社の発展と地域経済の活性化を同時に達成するための解となるだろう。
■資本主義の転機 日本と世界は変えられる
Part 1 従業員と家族、地域を守れ 公益資本主義で会社法を再建
Part 2 従業員、役員、再投資を優先 新しい会計でヒトを動機付ける
Part 3 100年かかって、時代が〝論語と算盤〟に追いついてきた!
Part 4 「資本主義の危機」を見抜いた宇沢弘文の慧眼
Part 5 現場力を取り戻し日本型銀行モデルを世界に示せ
Part 6/1 三谷産業 儲かるビジネスではなく良いビジネスは何かを追求する
Part 6/2 ダイニチ工業 離職率1.1% 安定雇用で地域経済を支える
Part 6/3 井上百貨店 目指すは地元企業との〝共存共栄〟「商品開発」に込める想い
Part 6/4 山口フィナンシャルグループ これぞ地銀の〝真骨頂〟地域課題を掘り起こす
Part 7 日本企業復活への処方箋 今こそ「日本型経営」の根幹を問え
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