書評執筆の仕事を長く続けているが、自分の読書について分析的に考える機会は意外と少ない。読書の秋を前に、あらためて本の読み方を自分なりにじっくり考えてみようと「百冊で耕す 〈自由に、なる〉ための読書術」(CCCメディアハウス)を手に取った。
著者は朝日新聞の編集委員で、九州の天草支局長を務めるかたわら、作家や評論活動、農業に取り組み、猟師の顔も持つ。さらに社内外の記者や映像関係者に文章を教える私塾も主宰する。筆者は文章執筆の極意を記した前著の『三行で撃つ〈善く、生きる〉ための文章塾』(CCCメディアハウス)から注目していた書き手だが、本書では著者の考える本の読み方をあますところなく伝授している。
速読か、遅読かではない
どう本を選び、活用し、そして自分の骨肉にしていくか。著者の考え方が示される。だが、決して押しつけがましくはない。
レコードにA面とB面があるように、物事の見方にも表と裏の両面がある。Aという考え方もあるが、一方でBという見方もある、といった具合にバランスをとりながら方法論を提示する。
例えば速読について、著者はこう指摘する
著者は、現代社会が実は速読できないように設計されていると説く。この見方は非常に印象的かつ説得的だ。
ネットやテレビは「見せ方」を重視するがゆえに知りたい情報にたどりつくまでに時間がかかり、実は遅いのだと著者は指摘する。これまで「ネットやテレビはスピード重視」という考えが主流だったが、生で進行するスポーツ実況などを除けば、著者の主張するように、情報を得るために一定の時間がかかっているのは確かである。
数ある媒体の中でも、紙の本は全体像を見通せ、資料ならその枚数に応じて人はその読むスピードを調整する。また、ページを行きつ戻りつすることでキーワードを見つけることができるともいう。
著者は速読の特徴について、「大局判断」「高速移動」と表現するが、こうした点にも大いに同意できる。また速読にあたって、音読しない、段落で読む、問題意識をはっきりさせるなどの技術的な助言は役に立つ。