2024年12月23日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2022年8月27日

(kazuma seki/gettyimages)

 本書『後悔を活かす心理学――成長と成功を導く意思決定と対処法』(中公新書)は「後悔」について研究し、それをとりまくさまざまな人間の心の動きと、人生のあらゆる場面での選択との関係性について考察した本である。

 生きている人の中で、自分は後悔をしたことがないという人はほとんどいないだろう。筆者も含め、生きていれば何かしら失敗はするし、後悔することも多い。たとえ大きな失敗とはいえなくても、思い出すだけで自己嫌悪に陥るケースもたびたびある。そういう中で著者は、後悔はネガティブな影響しか与えない感情なのか、という問題意識を持って後悔についての研究内容を本書で示した。

 後悔にはいろいろな形がある。著者が挙げている例をみても、電化製品や家具など高価で買い替える頻度が少ないものを購入した場合、「やっぱりあっちを買っておけばよかった」と思うことや、株式投資で迷った末に自分が買わなかった株が後日値上がりして後悔することなどもある。人生においても「あの時に結婚/離婚しておけばよかった」とか「もっとよく考えてから〇〇をすればよかった」などと思う例もあるほか、自分自身や肉親が死を迎える時の後悔もある。

 著者は学問的に後悔をどうとらえるのかについて解説する。著者によると、後悔に関する心理学的研究の始まりは古いものではなく、これまでに「後悔理論」という研究があるという。それは「人間の意思決定は、後悔感情を最小化する」というものであり、極力後悔しないように考え、行動することだという。

さまざまな顔を持つ後悔

 著者は後悔についてこう定義する。

 後悔とは、ある意志決定をするときに各個人が持っている「この程度の結果は得たい、得られるかも」という何らかの基準(予想や期待)と、その意思決定をした後に得られた結果とを比較し、得られた結果がその基準に達しなかった場合に生じるネガティブな感情といえる。

 さらに後悔は、過去展望としての後悔と未来展望としての後悔に分けることが出来ると著者は指摘する。

 過去展望の後悔とは、いわゆる一般的な後悔のことで、「私たちが実際に経験した結果」に対して感じるネガティブな感情のことである。つまり、「こんなことなら〇〇しておけば/しなければよかった」という悪い結果に対するネガティブな評価である。

 逆に起こりうる後悔を予想するという視点もある。未来展望としての後悔を著者は「予期後悔」という言葉でこう記す。

 予期後悔とは、メンタルシミュレーションによって、現時点から自分が選ぼうとしている選択肢や、それ以外の選択肢(複数でもよい)を選んだ場合に将来生じる結果を予期・想像・期待し、選ぼうとしている選択肢の結果とそれ以外を選んだ場合の結果とを比較・評価することから生じるネガティブな感情である。つまり、未来のネガティブな結果に対する予測である。

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