こうしたさまざまな顔をもつ後悔に私たちは人生の中で何度も遭遇する。逆にいえば、人は後悔をいくつも経験しながら生きているとも表現できよう。さらに、ああすればよかった、と考えたり、ああしなくてよかった、という感情も絡まって、思いは複雑になっていく。
後悔を回避するための方法についても触れる。後悔を予期することにより、失敗したときの適切な対処ができ、さらに失敗を繰り返さないなどの適応的な行動をとることで、不適切な行動の回避などが期待できるという。
いかに後悔に対処すればいいのか
後悔は避けられないものだが、後悔しないための必要な能力や傾向性について記している部分は印象的である。そこで必要な力について、著者は「メタ認知能力」という言葉を使う。
いわば、もう一人の自分が、自分の姿を冷静に見て分析するイメージである。著者自身が何度も大学受験に失敗しながらも、自暴自棄にならなかった経験をエピソードでひきながら、以下のように説明する。
こうした考え方は、どのような場合や、どのような心理状態の時に、どの後悔対処法を用いればよいかという「後悔対処法」を知っておくことが重要、という指摘につながってゆく。そのために自分を客観視するメタ認知能力が必要になると著者は強調する。
後悔には多彩な種類があるが、行動との関係性についての言及は興味深い。行動して生じた後悔は一時的であるが、行動しないで生じた後悔は長期的に記憶に残り、時間経過とともに大きくなる傾向があると指摘する。
近年の研究では、大学受験のように何度も繰り返すことのできない状況では、行動したために生じた後悔(合格する可能性が低い第一志望校を受験して不合格になる)は、失敗した直後(不合格になったとき)は大きいが、時間経過とともに小さくなった。一方、行動しなかった(第一志望にチェレンジせず安全校に合格した)ために生じた後悔は、安全校に合格した直後は小さいが、時間の経過ともに大きくなったという。