2024年12月23日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2022年7月31日

 日本は長年にわたり十分に経済成長できていないという課題に苦しんでいる。 「失われた30年」とも言われ、少子高齢化の進むわが国が一定の成長を続けてゆくことは極めて重要な問題である。 諸外国に比べてデジタル化にも遅れをとっており、今後も先進国の一角を占めていけるのか、この国の将来に漠然たる不安がある人もいるだろう。

(marchmeena29/gettyimages)

 なぜこんなことになってしまったのであろうか。本書『「脱・自前」の日本成長戦略』(新潮新書)を貫いている著者の問題意識はそこにある。 著者はその原因を以下のように分析する。

  私は、その大きな原因は、変化を拒む日本社会の組織や仕組みにある、と捉えています。 いくら科学やデジタル技術が進展しても、社会システムや組織がそれを受け入れて機動的に変わることが出来なければ意味がありません。
(中略)
 この変革を妨げる要因を一言でいえば、内向きで部分最適な「タコツボ社会」です。タコツボ化という言葉は、古くは政治学者の丸山眞男氏が、『日本の思想』で提唱した概念です。(中略) 共通の根を持たない中で専門化が進んだ結果として、それぞれが集団をつくり相互間の意思疎通が困難になったとの分析は、今も多くの事象に当てはまると思います。

 こうしたタコツボ化が風通しを悪くし、縦割りでバラバラな組織構造を作り上げていると著者は指摘する。

「自前主義」が企業にもたらす弊害

 さらに著者は、 タコツボ社会の根底に宿っている価値観についてこれを「自前主義」と呼ぶ。 本書のキーワードであり、本のタイトルにも反映されている。他に頼らず独力でまかなう仕事のやり方を美徳とする考え方である。自前主義は一見、責任が明確になるなどの長所がある一方、すべてが自己完結することによって、 外とのオープンな連携を妨げ、 セクショナリズムに陥るリスクがある、と記す。

 その上で著者が言及するのは、グローバル化やデジタル化の進展が自前主義に大きな影響を及ぼすという点である。ネットなどであらゆる組織や国家がつながり、相互に影響しあう世界が広がる現在、これまでのような内向きで閉じたローカルなルールは変化を余儀なくされる。自前主義に陥ったタコツボ社会の仕組みは 変革の妨げになるという主張である。


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