2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2022年7月31日

 著者は「本来は自前で担っていた役割を外部のプラットフォーマーに任せることで、開業のリスクとコストを軽減することができる」と指摘する。起業のハードルが下がることで、前向きな動きが広がる効果は大きい。特に若い企業家にとっては円滑なスタートになるだろう。

伸ばせるものを伸ばす

 本書は長らく問題点として指摘されている日本企業の収益性の低さについても着目する。著者はこう指摘する。

 大きな理由の一つに、事業の“選択と集中”が進みにくいことがあります。背景には、自らの組織で多様な事業を運営する“事業の自前主義”があります。その結果として、自社のグループ内に、収益性の高い事業と低い事業が混在し、全体として収益性が高まらない状況に至っています。

 脱自前にあたって事業の選択と集中を行う時、企業はプラスの面を伸ばすのかあるいはマイナスを底上げするのかという岐路に立たされる場合もある。著者は限られた資源の配分先として伸ばせるものを伸ばす方が、伸びないものを引き上げることに資源を割くよりも、より効率的で全体を成長させることに貢献する、という考えを示す。

 つまり、伸びないものについては自前でやるのではなく、外部のベストオーナーに積極的に任せる必要があるという考え方である。このほか雇用や教育などの分野においても脱自前主義が「人財力」を高めることにもつながるという。

 最後に著者は日本の成長戦略にも言及する。そこでは限られた資源でいかに付加価値を高めるかという企業経営の見方を国家経営にも応用することが重要だと強調する。

 さらに個人のレベルでは、自分の強みを再発見し、所属する会社や組織だけでなく、社会の中での居場所を増やしてゆくことがこれまでのような閉塞感を打開し、人生の選択肢を広げることにつながると説く。

 固定的な観念から脱却し、柔軟な発想で足元の状況を見つめ直すことは簡単なようで難しい。だがそれを実行し、著者のいう「強みの再発見」に踏み出すことで新しい道が見えてくる可能性がある。それは個人や企業、そして社会にいたるまで共通する点であろう。長きにわたり閉塞感がなかなか打破できなかった日本に、大きな力を与えてくれる一冊である。

   
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