著者は 長年にわたって企業や行政の組織変革に携わるコンサルティングの仕事をし、現在は大学でも教えているが、その経験からこう指摘する。
それゆえに、これからの日本社会に求められるのは「脱自前」であると本書は主張する。 自前で完結してきたやり方を見直し 目的を共有できる相手と積極的に連携することで 「自らの強みを再発見」するという含意である。
脱自前主義がもたらす本業の再定義
時代的な背景として著者はデジタル化の流れをあげる。デジタル化には日本の内向きの社会構造を壊す力があり、逆にいえば、多くの日本の組織や社会システムは外向きに開かれることに対して潜在的な抵抗感がある。このためなかなかデジタル化が進まない状況にある。著者のこの見方には大いに賛同できる。
さらに著者は「自前主義の限界はコロナ禍が突き付けた」とも指摘するが、これも鋭い見方である。 誰もが自分だけでコロナ禍を乗り切ることへの限界を感じた結果、社会の中で自らの存在意義や貢献のあり方を深く考える契機になったと説明する。
そのうえで、本業を再定義し、社会との新たなつながりを作り上げることで成長への可能性を開くことを提案する。
そのために具体的にはどうすればいいのか。 著者は3つの視点で仕事のあり方を見直すことが有効だと以下のように記す。
本書は一例として 三重県の水産会社の例を挙げる。従来は鮮魚丸ごと一体で扱うことが主流だったが、部位別の加工・販売事業の展開を開始したところ付加価値が生まれ、新たなビジネス機会を得ることができたという。
このほか菓子作りにAIを使った洋菓子メーカーや、クラウドファンディングを活用したメガネ生産などの例が紹介される。いずれも新しい視点で仕事を見直したことが成功の足がかりになっている。
さらに店舗を自分で持たないことにより機動性を高めて、起業しやすくなる例なども増えている。本書では、店舗の選定や契約などを他者に請け負ってもらうことで、美容師が接客に専念できるサービスが生まれたり、料理人がフードトラックを活用して起業しやすくなったりするなどの事例も紹介される。