2022年9月29日(木)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年2月23日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師、東北学院大学経済学部准教授を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。

[著書]
「アンガー・マネジメント」を習得したい、経営者の困ったさん。怒りやイライラといった負の感情と上手に付き合っていくためには……。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

困ったさん:会社を興して30年になるのですが、いまだ怒りの感情を抑えられないときがあります。経営判断や部下とのコミュニケーションでつい感情を露わにしてしまい、振り返って後悔することも多いです……。

佐々木先生:腹を立てながら大事な決断をし、ろくな結果にならなかった、という体験は誰しも持っているものです。

 行動経済学では、怒りの感情を持つことは「不確実性」の伴う状況における意思決定に影響することが知られています。怒っているときは、不確実性の大きな事象がより確実に生じるもののように感じやすくなり、物事を自分で統制できる感覚も強くなるそうです。冷静なときにはリスクを避けたいと考えるのが一般的ですが、怒りを覚えることでリスクの大きな選択肢を果敢に取りにいく傾向が強まるということです。

 例えば、株や投資信託で大きな損を被ったときに、怒りを感じやすい人はそこで損切りせずに、さらにリスクを取って投資を続ける可能性があります。結果、より大きな損を被ってしまうこともあるでしょう。

困ったさん:リスクを客観的な水準で認識しづらくなるにもかかわらず、自ら決断しようとする意識が強くなってしまうのですね。経営者として、社員を危険に晒す可能性が高くなってしまうように感じます。

佐々木先生:こう説明すると、怒りにまかせた判断には悪いことしかないように聞こえますが、冷静な状態なら不確実性を恐れて踏み出せないことも選択できる、という見方もできます。例えば、起業や新規事業の立ち上げには大きなリスクが伴いますが、怒りやすい人の方が一度や二度の失敗で落ち込まずに、チャレンジを繰り返すことができるかもしれません。

 一方で、怒りの感情が良いように作用する場面とそうでない場面があるようです。握力を競い合うゲームでは怒っている状態の方が成績は良くなりますが、頭脳ゲームでは逆に成績が悪くなることを示した研究があります。アンガー・マネジメントでは、怒りがどんな場面で役に立ち、または役に立たないかを冷静に見極めることが重要でしょう。

困ったさん:ただやみくもに抑えようとするのではなく、「怒り」の感情がもたらす弊害と効果を理解したうえで、管理することが大切なんですね。

  ひとくちメモ   恐怖や悲しみ
「怒り」の影響と対照的な影響を持つのが、「恐怖」の感情である。恐怖を感じているときには、不確実性をより大きく感じ、物事を自分で統制できる感覚が減退して、リスクの伴う選択肢を取りづらくなるという。
 また、「悲しみ」を感じるときは、自分で統制できる感覚が減退することに加えて、目の前の利益を求めて近視眼的になるそうだ。
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■魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない
PART1 魚が減った本当の理由 日本の漁業 こうすれば復活できる
片野 歩(水産会社社員)​
 Column 1  その通説は正しいのか? 漁業のギモンにお答えします
PART2 ノルウェーだって苦しかった 資源管理成功で水産大国に
ヨハン・クアルハイム(ノルウェー水産物審議会(NSC) 日本・韓国ディレクター)
 Column 2   原始時代から変わらぬ日本の釣り 科学的なルール作りを 
茂木陽一(プロ釣り師)
PART3 70年ぶりに改正された漁業法 水産改革を骨抜きにするな 編集部
PART4 「海は俺たちのもの」 漁師の本音と資源管理という難題
鈴木智彦(フリーライター)
PART5 行き詰まる魚の多国間管理 日本は襟元正して〝旗振り役〟を
真田康弘(早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授)
PART6 「もったいない」を好機に変え、日本の魚食文化を守れ!
島村菜津(ノンフィクション作家)
 Column 3  YouTuber『魚屋の森さん』が挑む水産業のファンづくり 
森 朝奈(寿商店 常務取締役)
 Opinion  この改革、本気でやるしかない  編集部

  
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Wedge 2022年3月号より
魚も漁師も消えゆく日本
魚も漁師も消えゆく日本

四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか

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